殺処分

 仕事でちょくちょく役場へ行く。とある日、駐車場に一台の軽トラが停まっており、荷台にゲージに入れられた大型犬がいた。黒のラブラドール、狂犬病の予防接種も終わった今、犬が役所の駐車場にいるのは珍しい。これから散歩に出掛けるのかな?と思った。動物好きの私がチョッカイ出しても微動だにしない。大型犬だから落ち着いているんだと理解したが、ちょっとその寂しそうな表情が気になった。

仕事が忙しく犬の事等忘れかけた頃、時折訪れる業者の車を見つけ全てを悟った。胸がバクバクした。涙が溢れた。さっきのラブラドールは大人しかったんじゃない。絶望していたんだ…犬は賢い動物だ。自分の置かれた運命を理解してしまう。幼い頃の記憶が甦った。

幼い頃私の家で飼っていた犬が逃亡してしまい保健所に捕まってしまった事がある。早速問い合わせ、該当しそうな犬がいる事を知った私は、知人の車で保健所へ向かった。係員に促され檻に向かうと沢山の犬が一斉に吠えた。私の犬と言えば、その奥で犬の数に怯えたか?小さくなっていた。

私が係員に私の犬がいる事を伝えると、係員は檻の鍵を開け私に中に入って連れてくる様に言う。しかし私は一斉に吠える犬に躊躇し中に入れずにいた。そんな私に係員は言った。

「此所の犬達は皆、助けを求めて吠えているから決して君に噛みついたりしないよ。」

それを聞いて私は胸が詰まった。私には一匹しか救う事が出来ない…。裏腹に私の犬と言えば檻の奥の方に縮籠って私が近づくといつも悪さをした時見せる「面目ありません!」と言う表情を作った。

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私はちょっと施設の中を見せて貰った。檻は6つあった。此処へ運ばれて来た犬達は最初は一番手前の檻に入れられる、私が入った檻はこの檻だ。日が経つと入った犬達は一つづつ奥の檻に移動させられる。最初の檻に入れられた連れてこられた犬達はさんざん吠え捲っているが、移動が進むに連れ大人しくなり最期の一部屋に残された犬はもう身動ぎもせず虚空を見つめていた。係員曰く、もうその時期になると犬達は自分が捨てられた事、そして自分に待ち受ける運命を悟ってしまうのだそうだ。

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その時見た虚空を見つめる犬と、先程見た黒のラブラドールの寂しそうな表情が被ってしまったのだ。

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そしてもう彼等に残された日は無い。翌日はドリームルームと名前ばかりは美しいガス室に彼等は送られる。安楽死と説明されるがとんでもない。ガス室には二酸化炭素が充填され犬達は其処で窒息死させられる。これが安楽死なら火事で煙に巻かれて亡くなった人は安楽死だった事になってしまう。私は動画でこの光景を見た。犬達は何とか空気を吸おうと悶え苦しみ、やがて痙攣し次々と息絶えていった。安楽死と言うのは余りにも人に都合の良いお伽噺話に過ぎない。

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そして息絶えた犬猫達はオートマチックで焼却され事業系廃棄物として処理され無縁仏にすらなる事が無い。凶悪犯罪を犯した死刑囚が、こうして殺処分されたなら、それも因果応報かと思えるが、何一つ罪の無い犬達を苦しませて殺すのは納得できない。

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ちょっと不安に思い、調べてみて驚愕した。26年の統計で、一年に犬が役所に運び込まれた53218匹の犬の内、飼い主に返還された犬は僅か14286匹、里犬に出されたのが17339匹、そして殺処分された数21593匹。(猫も加えると101338匹にもなる。)40%の犬が殺されてしまった事になる。これに里親に譲渡された犬を加えて鑑みると、最初から放棄するつもりで犬を放った、又は保健所に預けた人がどれだけ多いかが解る。

また深刻な問題として業者の流通過程に於ける犬猫の死亡に関する問題ががある。2014年度流通した犬猫の数は750563匹、そのうち23181匹の犬猫が流通過程に死んでいる。流通過程なので老衰が其ほど多いとは考えられず、衛生環境も食料事情も整っている日本に於て、其ほどの死亡数が出ると言う事は、余程の杜撰な管理で育てられ命を落としたか、流行りが終わった等の理由から、未だ十分寿命がある犬猫が意図的に殺されている事を示していると言って良い。

どちらにせよ人の勝手な都合により万を越す犬が殺されている現状は異常な事では無いだろうか?

犬猫の殺処分を減らせない理由の一つに、それをしないと犬猫の管理に莫大な費用がかかってしまうと言う事がある。でもそれって根本的な所からベクトルがずれている。これは犬猫側に問題があるのでは無く、モラルに欠けた飼い主側に問題がある事。それを行政はまるでゴミの日のゴミ回収感覚で御親切にモラルハザードの飼い主から犬猫を回収している。

犬猫の殺処分少なくする為には、モラルに欠けた飼い主に手厚くサービスするのでは無く、モラルに欠けた飼い主を殺処分する事、おっと口が滑った。減らす事こそ肝腎だ。免許制にする。放棄に罰則、罰金を課す等方策は様々あると思うが、飼い主に、安易な放棄は割に合わない事を思い知らせる方策が必要なのだ。犬の放棄が減れば、殺処分される犬も減り、税金も減る。繰り返すが、これは犬の問題では無く、人の問題なのだ。私は何も動物愛護の観点だけで物を申してる訳では無い。一人の納税者として、一部のモラルに欠けた飼い主の勝手な行動の肩代わりとして、我々の払った血税が無益な殺傷に使われている事に虫酸が走る。

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学校の社会科見学でも良い、これから犬猫を飼おうとしている人に義務付けても良い。私は放棄されてしまった犬猫達が、どういう末路を辿るのか、施設で死を待つ彼等の姿をもっと多くの人々に直接見て貰うべきだと思う。そして、それでも飼い犬を殺処分する人々には、一時は愛しただろうペットの最期の無惨に殺処分される姿をしっかりと看取らせる事。そうで無ければ、役所に預ければそれで完結してしまい、そんなコンビニエンスな気持ちで役所に犬を処分しに来る人が後を絶たない。

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明日は犬が運ばれて来ない事を祈るばかりだ…

是非見て欲しい動画があります
kaiseiさんの作品です


※上手く再生できないときはコチラから



(写真は関連サイトから借用させて頂きました。)