ブルネイ旅行記最終回

 そのまま地下鉄に乗っていれば海底トンネルを潜り、そのまま香港駅まで行けるのだけど、私は手前の駅で降りた。ヴィクトリアハーバーから眺める香港島の夜景を眺めたかった事とスターフェリーでヴィクトリアハーバーを渡りたかったからだ。これを抜きにして香港に来たとは言えない。

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 スターフェリーは香港島と九龍側を結ぶ庶民の足、だからとても安価なのだが、夜になれば香港の百万ドルの夜景をたった2、5香港ドルでクルーズ出来る。まるで香港島の光の渦に吸い込まれていく様に私を乗せたスターフェリーはヴィクトリアハーバーを進んでいく。

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 運河が碁盤目の様に走る東京下町に育ったからか、私は水路があったり、渡し船があったりする街の風景がとても好きだ。ヴェネツィアイスタンブールシドニー、ドバイ…そして今回訪れた二つの街…

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 ブルネイ川をモーターボートが疾走するブルネイのバンダル・スリ・ブガワン。スターフェリーが往来する中国の香港。二つの渡し船がある風景を旅してきた。互いに裕福な都市である事も共通している。嘗て海のシルクロード交易で繁栄し、今や天然ガスと石油で潤うブルネイ、一方香港は金融や貿易に於けるアジアの中心地として上海やシンガポールと共にアジア経済を引っ張っている。

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 現在、東南アジアを取り巻く環境は激変している。十年一昔が今や5年一昔だ。嘗て旅人を魅了した魔窟・九龍城はとっくの昔に取り壊され、水上生活者が割拠したアバディーンも姿を消した。沢木耕太郎氏を深夜特急の世界に導いた廟街もディープさは微塵も無く、香港名物スターフェリーでさえ、地下鉄や海底トンネルに押され庶民の足
の座を失いつつある。今回落成した天際100のみならず刻々と香港は生まれ変わりつつある。

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(廟街)
 方やブルネイの水上集落にも新築ラッシュの波が押し寄せていた。再びブルネイを訪れる頃にはモダンな水上集落に生まれ変わっている事だろう。

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 でも、どんなに世界が変わろうと、決して変わって欲しくない、変わっちゃならないものがある。それは其処にあるべく彼等の人間臭さだ。毎度はにかむ様に優しく迎えてくれたブルネイの屋台のオバチャン。捲し立てる様に注文を聞く香港の肝っ玉オバチャン。二つの国は似かよう点も多いのに、全く気質の異なる人々が暮らしていた。

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 それで良いんだ!それだから良いんだ!もし世界が無機質で没個性的なビルに覆われ、金太郎飴の様な人々が闊歩する世界だとしたら、どうして私は旅に出よう?無機質な摩天楼の袂にコテコテのオバチャンが伸し歩くから香港であり、近代化も富も成し遂げて尚、水上生活を止めないからこそブルネイなのだ。それぞれの個性が輝いてこそ、旅人はそれに魅せられ旅に誘われる。

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 大海原を機内から見下ろす。此処香港の脇の広州から旅立ち、ブルネイを経てアラビアへと続いた海のシルクロードイスラームは交易に始まり、交易で広がった文化。嘗て世界の中心に位置し、東西文化の橋渡しを担った。交易とは即ち旅。イスラームを旅する事は嘗ての旅人達の旅路をなぞると言う事。その道程が私を次の旅へと導いていく。