遥かなるトンブクトゥ23アマドゥ宅
連れられて向かったその家でアマドゥがにこやかに私を迎えてくれた。
「ようこそさっくんさん、ご無事で何よりです!」
アフリカらしい大家族、子供がはしゃぎ回る中、つもる話を咲かせながらアマドゥにご馳走になった食事に思わず興奮してしまう。
「アマドゥ、これどうやって作ったんですか?」
余りに美味しく、余りに和食的に感じたからだ。マリはぶっかけご飯をよく食べるし今回も多くがそんなメニューで私を喜ばせたが、そんな中でも最高の逸品だ。聞いてみれば魚をすりおろしたものとトマトが使われているらしい。味付けもさる事ながら魚が和的に感じた理由だろう。少なくともハヤシライスより和的で味も遥かに上手い。このレシピで日本で売り出したらさぞ人気が出るに違いない。
興奮気味に料理にがっつく私を微笑ましくアマドゥは眺めながら、私が一段落すると話の本筋を話始めた。
「さっくんさん。でもどうしてそこまでしてトンブクトゥへ行こうと思ったのですか?」
「私はこれまで東は中国のシルクロード、中東、そして北アフリカとイスラームの交易ルートを辿り、それをテーマに旅を続けて来ました。そして訪れたモロッコのサハラ砂漠。それは私にとって追い続けた旅の終焉とも思いました。何故ならそこで見た光景は永遠の砂に覆われた世界で、人の存在などちっぽけにさえ思える過酷な世界だったからです。しかしその昔、この砂漠を渡って人々は交易を続けたと言います。だとしたら自然の驚異の前に人の存在など如何に小さいものであったとしても、人の持つ可能性って自然と同じ、いやそれ以上に大きなものでは無いかと私は砂丘の上で感動していたんです。」
「だとしたらその可能性に導かれ、可能性の末に旅人達が目指した場所とは一体何処なのか?何を求め彼等は可能性に賭けたのか?それが次なる私の旅の目的となりました。そうその答こそトンブクトゥです。」
優しいアマドゥの目がキリッと変わった。
「しかしながらマリを訪れるにあたって様々な困難が私の前に立ちはだかりました。やっと旅が叶いマリに訪れる事が出来たその日、あの事件が起きて...。歴史上もトンブクトゥと言えば「遥かなる大地」と呼ばれているそうですが、今回私の旅も可能性に賭けた、遥かな、遥かな、道程でした。」
アマドゥが優しく口を挟む
But You finally at last(でも貴方は遂に)
私は応える
Yes,I have been to Tombouctou
アマドゥと私の言葉が重なる
AAAnd...Back!!
四つの掌が重なった。
「アマドゥ...全て貴方のお陰だ!ありがとう!」
でも内心、とても不思議に感じていた事がある。アマドゥは何故私をこんなに手厚くもてなしてくれたのだろう?政府の旅人をトンブクトゥから撤収命令に背いてまで私を有らん限りの手段でそこへ導いてくれた。私は団体でも要人でも無い。旅行代理店にとって一番採算の合わないだろう個人旅行客だ。普通の代理店なら面倒臭いの一言で断られてもおかしくない。更にこんな状況に反して旅人をトンブクトゥへ向かわせるのは余りにリスキーな行為である。なにかあったらアマドゥ自体も危ういだろうに...。しかしその答えは聞かずもがな、後の彼の熱い語りが語ってくれた。
「さっくんさん!私達の国は貧しいです。貴方達の国にある様な便利なものは此処には何もありません。でも私達の国には先祖が残してくれた立派な遺産がいっぱいあります。私はそんな素晴らしい遺産の数々を海外から旅しに来てくださる旅人の皆様に紹介する事を誇りに思ってこれまでこの仕事を続けて来ました。」
「だけど、今回こんな事件が起こってキャンセルの連続です。とても悔しいです、哀しいです。そしてもしそれが紛争にでも繋がったら私達の積み上げてきたものは一瞬にして全て奪われてしまいます。いえ私達旅行業だけではありません。例えばレストラン。その食材を作る農家の人々、私達は全て繋がっているのです。紛争はその全てを一瞬に奪ってしまうのです。そんな中、さっくんさんは勇敢でした。ありがとう!」
もう互いの顔はクシャクシャだった。ただひたすらトンブクトゥへ行きたいと願い続けた東洋から来た旅人がいた。そんな願いを聞いた旅の神様が、此処マリで誇りを持って旅行業を営む旅のプロに巡り会わせてくれた。私はそんな風に受け止めている。アマドゥ、本当この男に巡り会っていなければ私の旅は完結出来なかった。奇跡的で素晴らしい、またと無い出会いに導かれた旅となった。
アマドゥがいなければこの旅は成り立たなかった、ティメはいつも私の側で折れそうな私の心を支え続けてくれた。アリのドライブはいつだってジェントルだった。軍人のあの鬼神の様な走りと強引な乗船が無ければトンブクトゥは暗闇だった。そして彼等がいてこそ無事が保証された。誰一人欠けてもこの旅は成立しなかった。
アマドゥに感謝
ティメに感謝
アリに感謝
二人の軍人に感謝
エアーマリの社員に感謝
マリの全ての人々に感謝
そして旅の神様に感謝
アマドゥの大家族に見送れれ、ムハンマドの運転で空港に向かった。途中大河ニジェールを越す。私の旅の最中、バマコからトンブクトゥまで絶えずこの川に沿って旅を続けた。その川とも最期のお別れ。往きの出逢いがそうだった様に帰りも夕焼けが私を見送ってくれた。
万感の想いを乗せて飛行機は深夜マリを飛び立った。これからケニアのナイロビ、タイのバンコクに立ち寄って私は日本に帰国する。