遥かなるトンブクトゥ18サヘルを越えて3

 車は乗れなかった事を悔しがるかの様に満車のフェリーに積まれた車スレスレに止まった。直後ガクンと音がしてフェリーが出港する。あれ?なんか変だ?大地が動いている。え?なんと我々もフェリーに乗っている!なんと軍人はフェリーの昇降ラダーに車を乗っけてしまったのだ。なんて無茶苦茶な。そしてその無茶苦茶のお蔭で私の念願はまた首の皮一枚で繋がった事になる。

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 鬼神の様な運転から開放されて、皆車から這い出してくる。気密性の高いランドクルーザーの車内まで入り込んで来た土煙や砂埃で皆身体中自然に迷彩色だ。それを払いながら皆健闘を称え会う。記念撮影をする。いつしか違うフェリーの乗員もそれに加わった。

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 ティメが私をフェリーの操縦席に導いた。吹き抜ける風が心地よい。川には子供が遊び漁師が魚を追い、まるで普通の日常があった。

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 ティメが言う。此処にはカバも出るんですよ!と。思わず私がたじろぐ。カバは見た目と違って獰猛で勇敢な動物だ。私が以前ボツワナでサファリを体験した時、子連れの象の威嚇にもたじろがなかったガイドが、水場のカバに目が真剣になった。象でもライオンでも人間を見れば彼等も怖がり慎重になるのだけど、カバだけは人間だろうと縄張りを守る為になら何の躊躇も無く襲ってくるのだと彼は言う。

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 そんな思い出を回想している私にティメは続けた。

「私達の国がフランスから独立した時、フランスは勝手な国名を考え私達に強要しましたが、私達はそれをキッパリと断り、昔栄えたマリ帝国の名前を拝借してマリと名付けました。そのマリと言う言葉はカバに由来しているんですよ。」

 私はボツワナで見た。あの勇猛果敢なカバを思い出した。残念ながらニジェール川のカバには出会えなかったけれど。

 そうこうしているうちにフェリーは対岸に到着した。やっとやっと目の前にまで来たトンブクトゥ。万感の想いを乗せてランドクルーザーのラストランが始まった。