遥かなるトンブクトゥ序4サハラ砂漠

 アトラス山脈を越えると、それまで緑多かった大地は草木も疎らな荒野へと姿を一変する。ドライヤーの様な熱風が吹く大地を振り替えればアトラス山脈の頂上には残雪が残る。

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 そこから先は人は疎らに点在するオアシスのみに暮らす事が許される。そこには嘗てイスラームの侵入からアトラス山脈を越えて居場所を求めた先住民族ベルベル人が暮らしている。日干し煉瓦で作ったまるで要塞の様な住居群はカスパと呼ばれ、サハラ砂漠へと向かうこの道はカスパ街道と呼ばれる。

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 そんなカスパの中でも保存状態が良く規模も大きいものがアイドベンハドゥだ。その偉容からシェルタリング・スカイやアラビアン・ロレンス等様々な名画のロケ地となった。更にカスパ街道を進めば次第にカスパとカスパの間隔は長くなり、そして遂には道は途切れる。ひたすら更に荒野を進めば前方に何やら巨大なオレンジ色の塊が大地にのし掛かっているのが見える。それこそ巨大な砂丘、即ちサハラ砂漠の西端だった。

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 そこからは古と同様駱駝に跨がり砂漠を奥へと進む。揺られる事約2時間。キャンプ地へと到着した。夜、小用の為テントから出て驚いた。偶然にも満月が砂漠を照らしていた。砂漠は月光に照らされてビロードの様に鈍く輝いていた。まるで違う星に降りたってしまったかの様な光景だった。ただ月が優しく私を見下ろしていた。

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 翌朝、キャンプの背後の巨大な砂丘に這い上がり日の出を拝んだ。太陽の向こうに果てしなく巨大な砂丘が連なっている。砂漠なんて砂の平原に過ぎないと思っていたがとんだ間違いだった。それは嵐の海原が時が止まってしまったかの様に巨大な波の様な砂丘が何処までも続いていた。もし私を此処まで連れてきてくれた駱駝が去ったとしたら、最早私は生きて帰る事が出来まい。この途方もない広大な自然に比べたら、人の存在なんて、なんてちっぽけなものだろう?

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 しかしだ。遥か昔、この砂漠を渡って旅をした商人達がいた。彼等は知っていたのだ。私には見えない砂漠の道を。だとしたら人間の可能性もまた途方も無く大きなものだと思う。その可能性を信じ、彼等は命懸けな旅をしてまで、いったい何処を目指したのだろう?そして何を求めて旅をしたのだろう?私は砂漠の南を熱い、熱い視線を送りながら眺め続けた。

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 これが、私をマリへと導くきっかけとなった。調べあげた彼等が命を懸けて目指した街はサハラ砂漠を越えた対岸、その名はトンブクトゥ。この街を訪れずして私のイスラームを追った旅は完結しない。いつか必ず訪れて見せる!この想いを胸に私はサハラ砂漠を後にした。