ペトラ バイ ナイト

 一旦ワディムーサの街で夕食を摂り8時半に再び遺跡のゲートに戻った。今宵は週三回開催されるペトラ・バイ・ナイトの開催日。続々とショーに参加するメンバーが集まった。簡単な説明の後、一団は再びエルハズネを目指す。漆黒の闇の中、一団は道の両側に添えられたキャンドルライトの灯りを頼りに神殿を目指す。神殿まで約3キロ弱、閉館から開催までの短い時間にこれだけのキャンドルを並べてくれる主催者の演出に心を打たれる。

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 やがて一向はシクに辿り着き岩の裂け目に吸い込まれていく。シクの夜は昼とはまた違った顔を持つ。両側に切り立った断崖は昼より圧倒的な迫力で迫ってくる。その中をキャンドルライトに導かれ我々はエルハズネに到着した。無数のキャンドルライトに照らされて神殿がぼんやりと浮かび上がっている。

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 神殿の前に引かれた蓙に座りチャイを振る舞われショーは始まった。民族楽器と語りで構成されたショーはシンプルな構成だった。もしかするとアメリカンなエンターティメントを嗜好する人にはこのショーは退屈に感じたかもしれない。エジプトやメキシコのピラミッドではレーザー光線と大音量の音楽と語りで音と光のショーが開催されている。

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 しかし私は此方の方が遥かに心に残った。このショーに使われているのは全て昔ながらのものだ。ライトはキャンドルが使われ音楽は民族楽器が用いられる。それが様々な想いを産み出してくれる。太古の人々も今の私達の様に神殿の前で焚き火をしながら語り合っていたのかもしれない。その時も同じ様に神殿は彼等の前に薄ぼんやりと浮かび上がっていたのだろう。そして彼等も楽器を鳴らし夜の宴を楽しんでいたに違いない。今の私達の様に・・・レーザー光線の光と大音量の音楽はそんな想像も消し飛ばしてしまう。

 私の記憶に深く刻み込まれた夜の神殿、しかし記録に残すのは大変難しかった。私が使っているカメラは単なるコンパクトデジタルカメラ。フラッシュなんて役立たずだし、高感度ISOも歯が立たない。設定を弄ってああだこうだ格闘しているうちに神殿に残っているのは私一人になってしまった。

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 神殿に深々と頭を下げ来た道を慌てて引き返す。上を見上げれば高く聳える断崖が押し潰さんばかりに迫ってくる。インディ・ジョーンズの見過ぎか、何かの拍子に岩と岩が動き出し出口を塞いでしまうのでは無いか?私は慌てて駆け出した。自分の足音が岩肌に反響し、それがまるで誰かが追っかけてくる様な錯覚に囚われる。自分の足音とカケッコしてる自分がいた。

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 やっと最後尾に辿り着き平静を取り戻し灯籠に導かれながらゲートに戻った。そこで大事な事を私は忘れていた。往きに遺跡まで来た道は下り坂だったと言う事。私は本当に最後の力を振り絞って宿への道を登っていった。ワディムーサの夜景が心に染みる。遺跡の側にホテルがあるお金持ちはこの夜景は見逃した筈だ。夜景に励まされながらやっとの事でホテルに到着した。部屋に戻り即ベッドの上に大の字になると頭の中がグルグルと回り始め私は深い眠りに墜ちていった。