ダマスカス1

 ではダマスカスの街を歩いて見よう。勿論歩くのは旧市街だ。旧市街の入り口からはスーク・ハミディーエと呼ばれる目抜通りが奥へと続いている。スークとはアラビア語で商店街を指し、一般的には迷路状になっている事が多いが、此処はアーケードの付いたまっすぐな大通りとなっている。

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 道の要所要所に金属製の壺を背中に背負って立っている人がいる。それはアラブ特有の商売、水売りだ。アラブは乾燥している地域なのでこうした商売の需要があったのだろう。隣国トルコでは今や観光客向けの要素が強いが、此処では地元色が濃厚だ。暇になると客寄せとしてコップに水を入れ、それを空中に飛ばし再びカップで受け止めると言う技を披露してくれる。

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スークをさらに奥へ進むとローマ時代の列柱と門が待ち構え、その奥にモスクのドームが見えてくる。イスラーム第4の聖地ウマイヤド・モスクだ。このモスクはイスラーム第6代カリフ・アル=ワリード1世により建てられた。現存する最古のモスクと言われている。また礼拝の呼び掛けをする為の塔ミナレット。礼拝の呼び掛けアッザーン。礼拝する方角を示す窪みミフラーブ等現在のモスクに無くては成らない仕組みがこのモスクで確立された。

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 またこの場所は紀元前2先年前から聖域とされ神殿が建てられていた場所だと言う。ローマ時代にはローマ神殿が、キリスト教時代になると教会に建て替えられ、更にモスクとして改修された。つまり信じる神は変われど4千年の間ダマスカスの聖域として崇められてきた聖堂と言える。

 その痕跡として、モスク内部にはローマ様式の列柱が建物を支え、キリスト教の聖者ヨハネ首塚が納められており一般的なモスクと少々雰囲気が違う。

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 さてモスクと聞くと厳粛なスペースと感じる人々も多いと思う。勿論礼拝の時間は厳粛そのものだ。しかしそれが終わると中庭は信じられない光景に変わる。ダマスカスに暮らす家族がそこで団欒を寛ぎ、まるで公園の様な暖かい光景がそこに広がる。

 これには訳がある。日本の寺院やキリスト教の教会はその場所自体に聖性がある。なので礼拝中でもそれ以外でも聖なる場所だから、人々は静粛を求められる。しかしモスクには聖性が無い。だから礼拝が終わってしまえばただの場所となる。だからそこでお喋りしようが昼寝しようが構わないのである。つまりモスクは礼拝の場所であると共に信者達にとってコミュニティースペースであるとも言えるのだ。

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 現地に溶け込み、いつしか信者用の出入り口から難なく出入りしていた私は、この街を歩き疲れるとこのモスクで彼等達とお喋りを楽しみ昼寝を楽しんだ。その時このモスクは世界で一番平和に感じられた場所でもあった。