嗚呼シリアよ!記憶の中に!

 昔々、ソ連と言う国があった時代。共産主義と民主主義が激しく争っていた時代。ソ連アフガニスタンに攻め込んだ。アメリカはそれに対抗するべく現地の民兵を訓練し鍛え上げ、彼等にソ連と代理戦争をさせた。その彼等の中から頭角を現した人物がいる。ウサマビン・ラディン氏だ。そうその民兵組織の名はアルカイーダ。その後9・11アメリカを震撼させたテロリスト集団として知られる様になる。

 時代
は飛んで、昨今世界を震撼させているテロリスト集団イスラーム国。この集団もまたアメリカが訓練した集団だと言われる。これを紐解く前に再び時代を少し前に巻き戻したい。

 中東、北アフリカのアラブ国家には独裁国家が多かった。これは欧米の思惑によるものだ。アラブに民主主義を取り入れて、下手にイスラームよりの国家となるより、親欧米の独裁者に権力を任せていた方が都合が良い。こうしてチュニジアのベンアリ、エジプトのムバラクは長い間の独裁を保てた。

 しかし2010年12月に起こったチュニジア民主化革命が一気に中東全体に広まると、それまで独裁者を擁護していた欧米は、手のひらを返す様に民主化を推す市民側を応援した。こうして守ってくれる筈の存在を失ったベンアリやムバラクは簡単に失脚する事になった。最初っから反欧米を掲げていたリビアカダフィはここぞとばかりに攻撃されて命を失った。

 こうした中、何故シリアに飛び火した民主化の嵐は何故収まらないのか?いや更に激しくなってしまったのか?

 欧米に擁護され、欧米に見捨てられたベンアリやムバラクと違い、シリアのアサド大統領はロシアや中国等に支援を受けていたからだ。欧米が反政府主義者を擁護し、ロシアと中国が政府側を擁護する。お互いが武器を与え争いが絶えぬ間に、それぞれの立場を擁護する国の部隊や過激派が流入し事態は悪化し複雑化した。

 こうした中アメリカはロシアの援助を受ける政府側に対抗するべく、同じく反政府側の立場で戦う民兵組織を訓練し鍛え上げた。これがみるみる内に成長し、あのアルカイーダさえ「こんな奴等と一緒に戦えない!」と袂を分けた程の残忍で狂暴な集団となり、シリアは愚かイラクの領土まで奪いイスラーム国と名乗る様になるのである。

 これにはアメリカも激怒しイスラーム国を空爆する事になる。が、アメリカはイラク領内のイスラーム国しか空爆をしなかった。何故ならシリア領のイスラーム国を攻撃してしまうと、アメリカの敵対している政府側にとっては都合の良い結果となってしまう。シリア領内ではアメリカにとってはこの時点では未だ、イスラーム国は必要な存在だったのだ。

 しかし後藤さんが殺害され、ヨルダンのパイロットが殺害され、そしてヨルダンが報復に出ると、アメリカも本腰を入れるしか無くなってきた。即ち地上戦をやるかやらないか?

 こんな問題と直面し、再びアメリカはイスラーム国と地上戦を戦わせる部隊を鍛え上げようとしているらしい。その筆頭に上がっているのがレバノンレジスタンス・ヒズボラだ。ヒズボラシーア派に属し、スンニ派イスラーム国とは対抗勢力にあたる。しかしヒズボラと言えばアメリカが指定しているテロリスト集団でもある。更に事に当たって同じシーア派の国であるイランとも接近しているとも言われるが、イランはアメリカと長く犬猿の仲にあった国でもある。嗚呼昨日の敵は今日は友、何も見境が無くなってしまったのだろうか?

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ヒズボラのTシャツ)
 私は不思議に思うのだ。確かにアメリカが考えている事は解る。地上戦では多くの兵士の命を失う危険性がある。だから世論も勝ち取り辛い。だから相手の地元の反抗勢力を鍛え上げ、互いに戦争をさせる。これならアメリカは自国の兵士の命を失う事無く戦争を有利に進められる。しかしその様な事をした結果、アルカイーダを生む結果となり、今回イスラーム国を生む結果となったと言うのにまた第三の勢力を作り、同じ過ちを繰り返そうとするのだろうか?

 私は考え、そして暗慘たる気持ちになった。つまりジャイアンは暴力を振るって相手を押さえ込むからジャイアンであり、ジャイアンが「みんな仲良くしようね!」なんて言ってしまったら最早ジャイアンでは無くなってしまう。

 世界の警察を気取り、世界一の軍事国家であるアメリカが、その位置を確保するには、定期的な戦争が必要であり、それが無ければ世界一の軍需産業が体を為さなくなってしまう。彼等には敵が必要なのだ。敵がいてこそ正義の味方は必要とされる。彼等にとって中東で新たな敵をプロデュースすることは彼等が正義となる為に一石二鳥の場所なのだ。

 こうして中東の人達は永遠に近い苦しみを味わい、そして憎しみは増幅されテロリストはまるでガン細胞のように世界中に拡散し増殖していく。永遠に終わる事の無いマッチポンプ、そしてまた正義の味方の出番となるのだ。

ならば正義っていったい何だ?
 
ウルトラセブンこと諸星ダンの言葉を思い出す。

「これは血を流しながら走り続けなければいけない、哀しいマラソンです。」

 2009年私はシリアに訪れた。あの平和なシリアの町並み、そして人々は、最早私の記憶の中にしか存在しないのか・・・ならば今その記憶を辿って見ようと思う。

注)ウルトラセブンシリーズはヒーローものながら、正義とは何か?と言うことを痛烈に考えさせられた作品でもあった。