インド旅行記前編最終回

  遂にインドを出発する朝となった。朝食を食べに宿を出た。丁度辻に出た瞬間だった。私の右頬に強烈な痛みが走った。何かが当たったのだ。右頬から伝わる液体の感触…私も遂に撃たれたか?でもそれなら今生きてはいまい。恐る恐る右頬に手をあてる。手にはビッチリと緑色の液体が…。

 回りを見渡すと爆笑しているインド人達。

「ふざけんじゃねぇぞ!ゴルァア!」

 と怒鳴るも四方八方から色水の入った水風船が飛んできた。何が起こってるんだ?多勢に無勢で宿へと後戻りして宿の支配人に訴えた。支配人は笑いながら返した。

「お客さん派手にやられましたな。今日は一年に一度のホーリー祭なのです。みんなで色水をかけあってお祝いをします。一年でこの一日だけはカーストを問わない無礼講なのです。」

 それを聞いてムラムラと私の感情は沸き立った。やめときなされと忠告する支配人を無視して街へと飛び出し色水をゲットしては色水をかけあった。インドに来て楽しい事も、感動した事もいっぱいあった。その反面ボッタクられたり、騙されたり、頭に来る事もいっぱいあった。そしてカースト制度や宗教の事、考えさせられる事もいっぱいあった。そんな全ての感情が剥き出しになって放たれ、色水へと変わり、そして浄化していった。


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 宿に戻った時既に私は全身レインボーマン状態だった。いや、口に入った色水を洗い流さんとミネラルウォーターを口に含み、それを一気に噴き上げれば、それは正にグレート・ムタの毒霧だ。部屋で着替えタクシーをホテルまで呼んで貰い空港へと向かった。空港で顔を洗ったが、何故か緑色の染料だけはどう洗っても落ちなかった。


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 成田空港に降り立てば、丁度オーストラリアから帰国する便と鉢合わせになった。オーストラリア帰りの観光客達は両手にブランドや免税品店の大きなビニールバッグをぶら下げ、それは華やかなものだった。一方我々の飛行機からは疎らながらインドから帰国したバックパッカーもいた。彼等は一目瞭然だった。みすぼらしい疲れた衣服に、皆何処と無く緑色を帯びているから。

 しかし私はオーストラリア帰りの旅人達に負けない程爛々目には見えない何かを持ちきれない程持ち帰った気持ちだった。私はそれまで、バックパックを背負ってはいたが、行き先は欧米、そしてオーストラリア。先進国の範疇だった。確かにそれらの旅は綺麗だったし楽しかった。一方万を持して臨んだインド。想定外の連続に、これでもかと言う程コテンパンにされたけど、汚い、きつい、厳しい事もいっぱいあったけど、脳髄まで旅の楽しさを教えられた旅だった。深さを感じさせられた旅だった。もし、この旅が無かったとしたら、アッサリ再就職してつまらない社蓄として歳を取っていたかもしれない。インドを旅すると人生感が変わると旅人は言う。強ち口から出任せでは無かった様だ。