インド旅行記前編5

 行き過ごしてしまったとは言え、インド屈指の見所であろうタージ・マハールを見ずにインドを去るのは余りにも惜しい。タージ・マハールを見るべく行き来た道を後戻りして私はアグラーへと引き返す事にした。往きは適当に列車に乗り込み大変な思いをした。だから今度はしっかりと二等だけど寝台を予約した。

 しかし実際ホームに立てば、ヒンズー語オンリーの何十両もの編成の列車の中から自分の予約席を捜し出す事は困難を極めた。私は客車を探しているあまり出発されてしまう事を恐れて適当の客車に乗り込んだ。だがこれが失敗の元だった。

 当時のインドの客車は日本のそれとは違い、客車から隣の客車へと移動が出来なかった。私は取り合えず飛び乗った客車の席をしらみ潰しに探したが、まさかその客車に自分の席があるなんてラッキーな事は無い。

 しかし、運の良い事に列車は度々一時停止を繰り返しながら走っていた。その一時停止中に客車のタラップから地上に一旦降り、隣の客車のタラップを登り、一両一両私の、私が予約した席捜しが始まった。何両飛び移った事だろう?扉を開けようとすれば、その客車の扉は鍵がかかっていた。良く見れば貨物車なのである。そうこうしている間に列車は動き出してしまった。

 車内に入れずタラップの手摺にしがみついたまま列車は走り出した。まるでアクション映画のヒーローの様だが、私は振り落とされまいと必死に手摺にしがみつく。そんな私をインド人が呆然と見送っていた。

「私、インドまで来て何やってんだろ?」

 暫し列車は疾走し、再び一時停止した瞬間を狙って私は一両分を全速力で駆け抜け次の車両へと飛び移った。そんな事を繰り返し、ようやっと見つけた自分の予約席はインド人の家族に占領されていた。

 予約した券を見せ、なんとか了承して貰うも家族まるごと追っ払うのも心が痛み、寝台の半分を家族に与え、私は残り半分に丸まって寝る。そうして私はやっと本来ならデリーの次の目的地であるタージ・マハールがおわすアグラーへと辿り着いた。