インド旅行記前編3

さて長いこと中断していた初めてのインドへの旅を再開しよう。私はインドに到着するなり、インドの洗礼とも言えるインチキタクシー、ボッタクリ宿、そしてインチキツーリストの三つ巴の攻撃を受け、それらをベロンベロンに酔っぱらう事で振りきった。公園で酔いを醒まし、幸先の良くなかったデリーを離れる為向かったデリー駅で、私は乗るべき列車を見つけられずにいた。そんな私を一人のローカーストの少年がバクシーシ欲しさであろうが、親切に手解きをしてくれたのだが、それがインドの鉄道公安に「旅人に絡んでいる少年」と受けとめられ、彼は公安に連れていかれてしまった。いたたまれなくなった私は、次にホームに到着した列車に、デリーを離れるべく、少年への罪の意識から逃れるべく、行き先も確認しないまま乗り込んだのだった。…これが前回までのあらすじだ。

 さて、私が乗った列車は正にカオスそのものだった。満員どころでは無い。溢れた乗客が通路を埋め尽くし、夜になると通路上に人の足が枕となり、私の足が人の枕となった。時おりグイッと頭を持ち上げられるのは、トイレに向かう人が人の頭を踏まない為だ。

 朝起きれば漸く人混みは幾分空いていた。トイレに行って鏡を覗けば、いつ出来たのだろう蹴られたか?頭を捕まれた時出来たのか?私の額から一筋の血が流れていた。まるでインド人が額に施す赤い印の様に…。これで私もインド人の仲間になれたと苦笑いした。

 しかし私が不思議に思った事。もうどうにでもなれと列車に乗り込み、荷物の事等とっくに忘れていた私だったが、周りの人が私の荷物を管理していてくれた事だ。ボッタクリで始まった私の旅だったが、なんの縁さえ無い旅人の荷物を案じてくれる人がいる。インドは不思議な国だとつくづく感じた。

 さて酔いが覚め意識がハッキリとし、車内もスッキリとしたところでハッキリとさせなければいけない事があった。

「今、私は何処にいるのか?」

 デリー駅で暗澹たる思いのまま次来た列車に飛び乗った私。一晩列車に乗っていたのだから次の目的地アグラーはとっくの昔に通り過ぎてしまった事は承知していた。いやそれどころか適当に列車に乗ったのだから、全く見当違いな方角に向かう列車に乗っているのかもしれないのだ。恐る恐る乗客に訪ねた。それはまさに馬鹿げた質問。

「此処は何処ですか?この列車は何処に向かっているのですか?」
 
 しかし旅の神様は私を見捨てていなかった。なんとアグラーの次に訪れようと考えていたヴァラナシなら、これから停まる駅からバスに乗れば行けるらしい。私は偶然にも至近距離を走る列車に乗っていたのだ。

 乗客に教わった通りバスに乗ってヴァラナシに向かった。車窓からはインド像が普通に牛馬の様に扱われていた。途中休憩で訪れた村では猿が神様として扱われ悟空以上に横暴を繰り広げていた。

「なんなんだこの国は…」

 やっとの思いでヴァラナシに辿り着いた。そこからはリキシャーと呼ばれる自転車で引っ張る人力車で街の中心まで向かう事になる。(リキシャーとは日本語の人力車が語源となっている。現在ではバイクのリキシャーが主流となっている。)これがまた戦いだ。あれよこれよと難癖をつけ人夫は値段を釣り上げる。抗う私、あまり抗い過ぎると仲間が集まってきて…。

 やっとの思いで宿に到着する。荷物を投げ出し今までの疲れを癒すべくベッドに倒れ込むとコンコンとノックの音。聞けば「女はいらないか?」「いらん!」と即答するも十分後には別の男がノックする。何度もそれを繰り返していると今度は「なら男はいらないか?」「もういい加減にしてくれ!!」と怒鳴る。

「なんなんだこの国は…。」