インド旅行記前編2
当時の難解なインドの鉄道チケットをどうやって私が入手したか今となっては解らない。しかしそれ以上にヒンズー語表記しか無いプラットホームで、私はどの列車に乗ったら良いのか途方に暮れていた。
「昼間っから酒飲んじゃダメだよ!君は何処に行きたいの?」
でも、これからそこら中で見る事となる、道端に座っては何もせず、ただ旅人に「バクシーシ!」と時に凄みさえ与える様に叫び続ける何もしない老人達と違って、彼は僅かばかりのバクシーシ、つまり今日を生きる糧の為、何処ぞと知れない酔っぱらいの旅人の為に善意の行動をしてくれてる事は犇々と酔っぱらいの私にも伝わってきた。私が無事列車に乗れたなら、バクシーシを弾んであげよう。そう思い始めた瞬間である。彼がまるで逆立ちする様な格好で私の視界から消えていった。残されたのは彼の悲痛な叫び声。
良く見れば、警官が少年の足首を掴み、まるでゴミ袋を引き摺るかの様に少年を運んでいく。シーク教徒だろうか、ダーバンを巻いたその姿はまるで北斗の拳に登場する拳王侵攻隊そのものだった。少年は旅人に付きまといバクシーシを強要する罪で連行されてしまったのだろうか?
私の酔いは一気に引き、私は千鳥足で拳王侵攻隊の後を追った。
「そ、その少年に罪は無い、許してやってくれ…。」
しかし人混みに紛れ、私の酔った足取りでは侵攻隊に追い付く事は不可能だった。
ボッタクリは捕まえない癖に、自分と違うローカーストの子供をまるでゴミ袋みたいに扱いやがって!
しかし反面、いけないのは自分だと痛切に思った。私が追っ払っておけば良かったんだ。いや、そうじゃなければ、そうそう良いところでバクシーシを彼に与えていたらこんな事にはならなかった。
私は暗澹足る思いで次にホームへと入った列車に飛び乗った。まるで逃げる様な思いで。