インド旅行記前編1

 08年にイスラームをテーマとした旅の一貫で訪れたインドを紹介したいと思った。が、その前にそれより十数年前に訪れた初めてのインドの旅を先に紹介したいと思う。

 それまでカナダ、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパと先進国の御綺麗な国しか巡ってなかった当時の私にとって、インドの旅は強烈なインパクトの旅となった。と同時に私に旅の奥深さを知らしめ、私を深く旅へと傾倒させたきっかけともなったのが、このインドの旅でもあった。

 当時はデジカメなんてものが存在しなかったし、当時の私はカメラを持たない主義で旅をしていた。だからこの旅は文章主体となってしまう事をご了承頂きたい。

 旅のピンチはその国の空港到着時から訪れた。今では旅の常識として頭に織り込まれているその事も、それまで先進国しか旅していなかった私は全く気づかないでいた。しかも初めてのインドに到着したのは深夜と言う旅人にとって不利極まりない時間帯だった。

 私はそこで、所謂ボッタクリのフルコースを味合わされる事となる。私をデリーへと運んだタクシーは何故か私一人に運転手とアシスタントの二人。途中でガソリンスタンドに立ち寄り給油し、その料金まで払わされた。勿論私は拒否したが「なら此処で降ろす」と言われても私にはどうする事さえ出来ない。

 更にタクシーはデリー市内に入ると何度も難癖をつけ、漸く私が予め予約していたホテルに到着するも、そこで妙に怒った様な人物が現れ「此処は治安上の問題で閉鎖されており入れない!」と捲し立てる。ならばとタクシーが違うホテルを紹介しようと言う事になる。

 今なら真相はハッキリと解る。突然現れた人物も彼等の一味だ。深夜到着で現地の物価も情勢も解らない旅人から運賃をボッタクリ、更にボッタクリホテルへと客を誘導し、更にキックバックを手に入れる。私は彼等の術中に填まってしまったのだ。

 そのホテルの代金は空港で両替した金額より高価だった為、払える分だけ前払いさせられ部屋へと案内された。私は怒り心頭だったが、その矛先はインチキインド人へ半分、騙された自分自身へ半分。こっそり持ち込んだバーボンを煽り自棄を沈めようとしたが、それではとても収まりがきかなかった。

 翌日ホテル側は私から取りそびれた宿泊代を私に払わせる為両替所へと私を向かせたのだが、其処は両替書では無く旅行代理店だった。そう!そこでボッタクリツアーに私を参加させボッタクリフルコースが完成するのである。

 しかし当時酒癖が非常に悪かった私の片手にはバーボンが握られていた。

「テメェ等何から何までふざけんじゃねぇよ!ゴルァア!」

 私は狭い店内で酒の勢いに乗って溜まりに溜まったものを暴発した。最初は宥めるのに必死だった彼等も終いには諦め、「お願いだから出ていってくれ!」

 こうして私は残った宿泊料を踏み倒して旅行代理店を後にした。どうせボッタクリなので気にする必要も無い。相手だって自分達にも黒い部分があるので警察にも通報される心配も無い。

 ボッタクリフルコースは降りきったものの、私はちと酔い過ぎた。デリーの地図も全く解らず、私はとあるロータリーの緑地で力尽きてふて寝を決め込んだ。どれくらい経っただろう?目覚めた私は思った。幸先は悪かったデリーの観光を諦め、気分一新次の目的地を目指そう。

 寝起きの私は未だ十分残った酔いのままリキシャーを捕まえてデリーの鉄道駅へと向かうのだった。それにしても不思議だったのは、公園で酔いつぶれた私の荷物を奪う事はさぞ簡単だった事だろう。アメリカやヨーロッパ等なら私は即一文無しだったに違いない。インドではボッタクル事はしても、盗みはNGなのだろうか?