シルクロードを西へ!コーカサス編アルメニア・エレバン及びその郊外3

 続いて訪れたのはゲハルト修道院、ガルニ神殿から程近い此処は神殿周辺同様深く切れ込んだ崖地となっており、その谷底に修道院が建つ。時代を感じさせる岩を利用した立派な礼拝堂が建っているが、更に以前は岩をくり貫いた空間が礼拝堂だったと言う。
 
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 ゲハルト修道院のゲハルトとは槍を意味する。槍と言えばエチミアジン大聖堂ロンギヌスの槍を紹介したが、そのロンギヌスの槍が発見された場所こそこの修道院で、故にゲハルト修道院と呼ばれると言う。
 
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 修道院内部は古い石造りで黒ずんでおり、時代を経た重厚感に満ちている。更に内部は石を積み上げ作られた部分のみならず、礼拝堂に寄り添う様に聳える岩壁をくり貫いて掘られた礼拝堂とも繋がっている。
 
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 礼拝堂の天井には明かり採りの窓が開けられているが、その周囲には見覚えがある装飾があったら。これはイランのイスラーム建築に見られるムカルナスの影響を受けたものと言う。
 
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(本家イスラームのムカルナス、イスファハーン・イラン)
 元々イスラーム文化はビザンティン帝国キリスト教文化を吸収しつつ発展した経緯があるが、それは一方通行なものでは無く、時にイスラーム文化は逆にキリスト教文化圏にも影響を与え、互いの文化を発展させてきた歴史がある。決して争いだけの歴史では無いのだ。
 
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 ゲハルト修道院を後にして更にエレバンから北に向かった。暫く走れば高速道路の脇にチラホラ浮き輪を売る屋台を見かける様になる。セヴァン湖に近づいた証拠だ。セヴァン湖はコーカサス地方最大の湖で、標高が高いので泳ぐには摘さないものの、酷暑のエレバンっ子には大人気の避暑地となっている。
 
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 そんなセヴァン湖の畔に古びた修道院が残っている。ソビエトによる乱開発によって水位が下がり、今となっては陸続きとなってしまっているが、嘗ては修道院は島に位置し、修道僧は俗世と隔離され暮らしていたと言う。
 
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 現在では陸続きになった部分に二つの礼拝堂が残されているが、礼拝堂の背景にセヴァン湖が迫る景色に多くの観光客が憩いの時を過ごしている。また湖沿いには海の家ならぬ湖の家が建ち並び数多くの人がマリンスポーツを楽しんでいた。
 
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 アルメニアのどの教会にもあるアルメニア独特の文化としてバチュカルと呼ばれる石碑がある。墓や記念碑として彫られるものだが、その芸術性にも注目が集まる。私が見た中では此処のバチュカルが一番風情があった。こうして私がお願いした訪問先は全て終ったのだが、時間に少し余裕があったので一足延ばしてツァグカゾールと言う街を訪れた。ツァグカゾールはエレバンっ子の高級別荘地で外資系の高級ホテルも進出している。
 
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 そんなツァグカゾールに建つケチャリス修道院を訪れ、冬場にはスキー場となるゴンドラに乗ってアルメニアの大地を一望した。もうすぐコーカサスの旅も終わろうとしている。シルクロードで括った今回の旅、東の中国では仏教の伝来の道として、中央アジアではイスラーム王朝の繁栄と交易の歴史を見てきた。そして此処アルメニアではキリスト教の秘宝を見た。まさかシルクロードの旅でロンギヌスの槍と対面するとは思いもしなかった。
 
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 エレバンに戻り最後の晩餐は寿司を食べに向かった。もう数日で日本に戻ると言うのに何故寿司??それはその寿司は此処でしか食べられないだろうものだったので。
 
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 コーカサスは牧畜が盛んで牛がそこら中で飼われているのは今まで紹介してきた通りだ。だからコーカサスの人は主食の様に乳製品を食べる。そんなお国柄、コーカサス人はピザが大好きな様で、アルメニアには激安のピザのチェーン店がある。余りにも安いので私も良く利用したが、そこに何と寿司のメニューを発見したのだ。
 
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 寿司とピザ。全く共通点を見いだせない料理だが、私はメニューの中からそれを発見した。それを最後の晩餐で食べようと思ったのだ。鮭、海老、穴子の握りに見せかけたその寿司は、シャリの部分が巻き寿司となっている。握りでありながら巻き寿司でもある独創的なスタイル。そしてその巻き寿司に巻いてあるものの中に、海外では多く見かけるアボガド等に混じってなんとクリームチーズが使われているのだ。
 
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 恐る恐る口にする。確かに鮭、海老、穴子の味がする。そしてシャリ。で噛み進めばクリームチーズの香りと味がそれまでの全ての味を打ち消していく。そしてシャリとクリームチーズの微妙過ぎるハーモニー。完璧に打ちのめされて私は店を出た。
 
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 ホテルに戻る途中共和国広場を通り過ぎようとすると、何やら大勢の人だかりが。やがて広場の噴水が大音量の音楽と共に踊り出した。日々行われているのか、今日は特別なのかは解らない。だけど此処は私のコーカサス最後の夜、私を見送ってくれていると解釈しよう。白鳥の湖に合わせ、噴水が一際高く上がった。さて、残すはカタールのドーハでのトランジットを利用しての観光のみだ。