シルクロードを西へ!コーカサス編アルメニア・ゴリス

 宿の支配人にタクシーを呼んで頂きタテブ修道院へと向かった。タテブ修道院アルメニアで一番美しいと評判の修道院だ。修道院とは修道僧達が修道生活を送る場所でもあり、勿論彼等が生活を送る場所以外に礼拝堂も併設される。そこが教会と異なる点で、仏教で言えば、寺院と僧院の関係に近い。
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 タクシーに乗りながら、芳しいとは言えない空模様を見上げ憂う。今回もまた修道院が建つのは山の上、山の天気は変わりやすい。最悪濃い雲が山の頂上を覆っていたなら、写真は愚かその姿さえ見れないかもしれない。修道院へは世界一(だった?)の長さを誇るロープウェイで行けるのだが、敢えてそれには乗らずタクシーで山道を登った。途中ドライバーが

「ほら、あそこに修道院が見える!」

 と前方を指差した。私は車を停める様にドライバーに頼んだ。私がロープウェイを乗らなかった理由を、ドライバーは聞かずもがな私に教えてくれた格好になった。何故なら私はそこの正確な場所を知らなかったのだから。そこからは遠目ではあるが、遥か先の断崖絶壁の頂上に小さく修道院が建っているのを確認出来る。そしてその絶壁の中腹からは滝が降り注いでいる。果たして修道院を建てた者は、滝が降り注ぐ真上に修道院を建てたのは意図的な事なのだろうか?
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 再びタクシーに戻り坂道を登っていると、運転手さんは再び車を停めた。何があるのか先に進めば、岩山の下から若者達のはしゃぎ声が聞こえる。どうやら渓谷となっており、水遊びが出来るポイントらしい。そんな渓谷を眺め、再び九十九折りの坂道を登っていく。道はやがてダートとなった。ジョージア程の悪路では無いが、もし雨が降ったなら登り難い道となるであろう。やがてタクシーは修道院へ辿り着いた。
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 修道院なだけあって、内部は礼拝堂のみならず、昔使われていた巨大な油を絞る器具や、修道僧が生活を送ったスペース等もあり、教会より規模が大きい。アルメニア使途教会は東方正教会とは宗派が違う為、教会の造りも外見こそ似ているが細部が異なる。一番解りやすい違いはイコノスタシスの有無だろうか?イコノスタシスとは東方正教会独特のスタイルで、教会の奥に聖職者のみが立ち入れる場所があり、その場所と一般の礼拝スペースを隔てる壁の事で、そこには多くのイコンが飾られているのが通常だ。アルメニア使途教会には当然それが無いので、東方正教会の礼拝堂より更にシンプルに感じた。
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 修道院の見学を終え更に小高い坂道を登った。そこからは修道院とその先に広がる山並みを見渡せる絶好のポイントだ。晴れていたなら申し分無いが、此処でも標高が高い為か、辺り一面花が咲き誇っていたので花と共に修道院を写真に納める。あれこれ画角を変えながら写真を写していると草むらから何かがガサゴソと。

「出、出たぁ!」

 毎度臆病者の私は思わず叫んでしまう。今度はヤギさんだった。今回の旅は家畜さん総登場だ。
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 牛さん、お馬さん、豚さん、鶏さん、羊さん、そしてヤギさん。咲き誇るお花だけでは無く、様々な動物達が私写真を彩ってくれる。これで天気が悪いと言ったら贅沢過ぎるだろう。
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  修道院からゴリスの街に戻った。ゴリス周辺はトルコのカッパドキアの様な奇岩地帯となっており、ゴリスの街の旧市街もそんな一画となっている。
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ただカッパドキアキリスト教にとって重要な宗教的拠点だったが、此方は庶民の生活の場であり、驚く事にゴリスの人々はそれほど昔に遡らない時代まで岩を利用した住居で暮らしていたと言う。
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 そんなゴリス旧市街に広がる奇岩地帯を散策した。現在では奇岩地帯は墓地として利用されており、更に坂の上はお約束の様に牛の放牧地としても利用されている。
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 そんな訳で此処でも牛さん達と戯れながらの散策となった。やがて遅い日没が迫り、牛の飼い主が遥か下方から牛達に戻ってこいと合図を送る。
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 牛さんも主人に「モー行くよ!」と鳴いて答える。私もそれに倣って坂を下るが牛さん達のペースに着いていけない。最後の一頭が坂を下りきると強烈に「モォー」と嘶いた。多分

「未だ一頭、変な旅人が降りられずにいるぞ!」

 と主人に伝えたのだろう。
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 宿に戻ると宿の主人が暇を持て余していた。

「今日は暇なんだよ。マルシュルートカに他の旅人は乗っていなかったかい?」

 主人は寂しそうな顔で私にアルメニア特産のワインとつまみを御馳走してくれた。
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 確かにタテヴ修道院と奇岩、観光資源がある割りには街には観光客を見かけなかった。皆ゴリスを素通りしてしまうのか?更には街も重厚な岩造りの街並みに反して人通りは少なく寂しさを感じた。宿の主人とワインを傾けながらゴリスの夜は更けていった。