シルクロードを西へ!コーカサス編ジョージア・シャティリ4

 運命の朝が訪れた。晴れ間が見える。昨日に比べれば上々だ。これならヘリコプターはやって来る。私は小さく握り拳を作ってベッドから飛び起きた。我々はこの二日間、旅費を温存する為軽食しか摂っていなかった。相部屋の韓国人が遂に根を上げ朝食を頼んだ。私はソワソワしていたので珈琲だけを頼んだ。
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  珈琲を一口飲んだ時だった。バババッとローター音が周囲の静けさを引き裂いた。私は思わず珈琲を吹き出しそうになってしまった。すんでのところで珈琲を喉に流し込むと韓国人の若者を急かした。
 
「早く飯食え!丘の上の広場へ集まるんだ!」
 
 と言い残すと今度はポーランド人の部屋を大きくノックする。バックパックに乱暴に荷物を詰め込み宿代を払い、大急ぎで急坂を駆け登り広場へ向かった。広場にはワラワラと旅人や地元の人が集まってくる。
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 とても一度じゃ乗りきれないので先ずは住民、そして先の大雨で仲間が遭難しているイスラエル人の救出、我々はその目処がついてからの出発となった。
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 またまた待たされそうだが、漸くシャティリ村からの脱出の目処がついた事から周囲の旅人にも安堵の顔が浮かぶ。待たされるくらいならと、再び私は要塞へと向かった。滞在中はいつも曇天だったシャティリ、晴れたと思いきや帰らなくてはならない。脱出したいとあれだけ思っていたのに、いざ離れるとなると離れ難い想いになる。
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 要塞を降ろうとして、要塞の隙間から覗いた風景に呆然となった。要塞の真下を流れる川の対岸の道がゴッソリと削られ無くなっているのだ。これではもう対岸から要塞の全貌を撮影する事は不可能だ。要塞の麓まで降り、目の前を流れる濁流を呆然と見つめた。
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 対岸に渡るべく橋は、首の皮一枚で流されず耐えていた。後どれくらい持つだろうか?対岸には行けないので、なるべく要塞の全貌を写せる場所へ移動してカメラを構える。しかし此処までの道中も最早濁流が道を削り始めている。此処にさえ来れなくなるのも時間の問題だった。
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 シャティリ村は今、濁流にズタズタに分断されつつあった。下手に道を歩けば村の中で孤立しかねない。まるで沈み逝く船に乗っている様なとても哀しい気持ちになった。
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 しかし此処で哀しみに暮れていてはいられない。ヘリコプターに乗り遅れたら一大事だ。私は再び丘の上に戻った。各旅人と挨拶を交わしていると、チャチャオバチャマがやって来た。お互い抱き合い最後の挨拶を交わす。
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 我々は今までずっとシャティリ村からの脱出だけを考え数日過ごした。我々こそが悲劇のヒーローだった。でも此処で自分が犯した大きなミスに気づく。我々は単なる旅人に過ぎない。どんな悲劇も無事にクリア出来れば、それで物語は完結し、良い思いで終わらせる事が出来る。しかし此処シャティリの村人達は我々を気遣い、送り出した後も、この現実に立ち向かい、復興していかねばならないのだ。なんて私は思い上がっていたのか?旅は時に自分の等身大を、小ささを、教えてくれる。
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 だけどまたこんな事も考える。今何処ぞの超大国の大統領も自分の国だけが…。欧州の国々もEU離脱を目指したり、世界先進各国が自分だけがって風潮だ。奴等もまた小さいなと。
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 自分が切羽詰まると自分の容量と言うものが見えてくる。困った時こそ寛大でいてくれる人こそ尊敬し、信頼される。国もまた同じでは無いだろうか?チッチャ過ぎるぜ自分!たった数日閉じ込められただけで何うろたえているんだ!
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 今度はチャチャを持参して帰ってくるぜ!今度は負けないぞ!
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 オバチャマ達に別れを告げる。私達を救ってくれるのはジョージア国境警備隊。すぐ山を越せばチェチェン共和国、ちょっと西には今だ領土問題となっている自称国家南オセチア共和国との国境を守る重大な任務を負っている警備隊だ。