シルクロードを西へ!コーカサス編ジョージア・シャティリ2

「昨夜の大雨により崖崩れが発生し道路が遮断された為マルシュルートカは走れないんだ。」
 
 一瞬呆気に取られたものの、こうなってしまったものは仕方無い。そうしている内に旅人は続々と集まり、マルシュルートカ二台分程も集まってしまった。事の重大性を把握しきっていない当時の私にとって、崖崩れより、これだけ集まってしまった旅人の方がよっぽど驚異だった。
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 この騒動で一番乗りのアドバンテージはチャラになってしまった。もし道路が開通しマルシュルートカが再開したら、今度はこの大勢の旅人達と席の奪い合いに成りかねない。彼等の多くはロシア語を話せる、私は話せない。情報戦では圧倒的に私は不利な立場になってしまった。
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 しかしこうしたシチュエーションの中、彼等をライバル視するのは有効な手段とはいえない。こんな時は情報を得る為にも、忘れ去られない為にも、此方から積極的に友好関係と協力関係を求めねばならない。
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 そして得られた情報は絶望的なものだった。崖崩れを治すべくものはシャティリ村には無く、ブルドーザーが峠を越えて救援に来るのを待つしか無いとの事。マルシュルートカでさえあれだけかかった道程をキャタピラー履いたブルドーザーでは丸一日の行程だろう。この時点で今日の深夜に予約していたアルメニアへの寝台列車のチケットも、明日以降二連泊予約しておいたエレバンのゲストハウスも諦めざる得ない事が確定した。
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 自分達がやれる事は、ただ状況を見つめるのみと言うのも癪なものだが、かと言って自分達が土砂を撤去出来る筈も無く、歩いて峠を越そうと思っても、土砂崩れが散発しているこの状況と天候ではリスクの方が大きかった。状況はすぐには改善しそうも無く、欧州のハイカー達は諦め顔でトランプを始めた。
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 事態が動かないのならいつまで待っていても時間が勿体無い。先ずは土砂崩れが起きた現場を視察に行った。途中散策中に親しくなったジョージア犬が何処からとも無く現れて、私を先導してくれる。此処周辺の牧羊犬のジョージア犬は巨大で獰猛だから近寄るべからずとガイドブックに書いてあったが、この犬は心優しい犬だった。
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 崖崩れは山から小川が流れ込むポイントで起きていた。ジョージアの山村ではこれくらいの規模の流れ込みには橋を架けない。しかし大雨+雪解け水が加わったこの現状ではひとたまりも無い。土砂の量はそれほどでも無いが、これでは車は走れない。
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 もうこうなったら仕方無い。昨夜泊まった要塞ゲストハウスは高過ぎるので、往きにマルシュルートカ知り合った韓国の若者が泊まっているゲストハウスに移動した。乗れなくなった寝台列車や泊まれなくなったゲストハウスに連絡したくとも、携帯の電池は切れ、充電したくとも停電で充電出来ず。Wi-Fiも無いからネットも使えない。予定が目茶苦茶になってしまった上に解決の目処さえ立たないが、不安に押し潰されていても旅の時間は過ぎ去ってしまうので、一人で勝手に自分自身にミッションを課す。
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 決めたミッションは要塞を川を挟んだ対岸の急斜面を登り、どれだけ高い場所から要塞を眺められるかと言う事。馬鹿と煙と旅人は、高い場所が好きなのだ。牛さんと戯れながら急斜面を登る。要塞より標高の高い場所まで登り、要塞を見下ろした。
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 下ろうとふと足元を見下ろせば、目も眩む様な急坂が。今回の旅は往きはヨイヨイ、帰りは怖い。結局マルシュルートカは再開する事無く、宿で一晩過ごす事となった。