シルクロードを西へ!コーカサス編ジョージア・ウシュグリ1

 まるで壊れたジェットコースターの様な車の旅が終わり、漸く私はウシュグリ村へと到着した。同乗の旅人の大半は2時間の滞在時間で日帰りする様だが、バスから覗いた車窓と予想以上に天気が回復した事から、態度を保留していた私は一泊する事を決断。マルシュルートカの運転手に良い宿を紹介して貰った。

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 ウシュグリ村と一般的に呼ばれるが、4つの集落があり、それを集めてウシュグリと呼ぶ。私は吸い寄せられる様に最奥に位置する集落へと向かった。私を吸い寄せたもの、それはもう7月になろうと言うのに白銀の雪に覆われたコーカサス山脈ジョージア最高峰シハラ山の姿だ。曇りが多い天気の中、シハラ山の部分だけが何故か晴れ間が多かった。晴れていても見られなかったと言う旅人が多かったあの山が見える!山の天気は変わりやすい。私は駆け出したい気持ちでシハラ山へと向かった。

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 行く手の両側の山の斜面は森林限界を越えているので草がまるで絨毯の様に敷き詰められている。牛や馬がそこでのんびりとしている。いやそこだけじゃない。泥道の村の中にもウジャウジャいる。そして彼等の落とし物も多いから歩く時は要注意だ。臭いも相当のものだが、でも美しい景色が目の前にあるから気にならない。

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 向かう道中の村の家のそれぞれに、他の場所では見られない不思議な塔が聳えている。これぞ復讐の塔と呼ばれるものだ。

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 それもその昔、この一帯には復讐の掟なるものが存在したと言う。家族の誰かが危害を被ったなら、その相手に必ず復讐せねばならないと言うものだ。しかもその掟は六代後の子孫まで有効となる。全く恐ろしい話だ。自分には全く謂れの無い、遠い昔の祖先が犯した犯罪の復讐として自分がターゲットになる事も有り得ると言う事だ。いつしか人々は復讐されるのを恐れ厳重な塔を建てる様になったと言う。

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 不思議な話だ…。そんなに復讐されるのが怖いのなら、最初から復讐される様な事をしなければ良いのに…。等と考えるのは平和ボケしていると言う事か…。しかしふと思い返せば、日本でも赤穂浪士等復讐劇はその当時は肯定されてきた。法治国家が成立する以前の社会では、復讐がそれを代弁してきたとも言える。復讐を恐れる事で犯罪を抑制していたのだ。コーカサス…この多種多様な民族がモザイクの様に暮らし、遥か昔から周囲の様々な列強の侵略を受けてきた彼等なら尚更の事。こうした塔を築かねば生き延びられなかった歴史がそこにあったと言う事。

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 ガイドブック等を見ると「それは昔の出来事で今は平和そのもの…」なんて解説が加えられている。果たしてそうだろうか?と私はふと疑問に思う。ウシュグリ村からもそれほど遠くないジョージア西部に、アブハジア共和国と言う自称国家が存在する。

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 自称国家とは世界が承認していない国家の事だ。ソ連が崩壊した時、それまでソビエト連邦に加盟していたジョージアは独立した。しかしジョージア人とは違う民族が多かったジョージア西部では、ジョージアが独立するなら我々も独立する!って機運が高まった。そうはさせまいとするジョージア。そして泥沼の内戦が始まった。現在は停戦状態にあり、ジョージアは認めていないが、実施的にはアブハジアによるジョージア西部の実効支配は続き、彼等は自らを国家と称している。

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 いや、ジョージアのみならず世界の至るところで紛争やテロが発生し、その復讐と詠い先進国は一般市民の暮らす地域を爆撃する。復讐の連鎖は続いていく。そして我々はテロや復讐に怯えるあまり、「テロとの戦いだ!」を合言葉に新たな軍事施設を建造し続ける。それは復讐の塔とどう違うのか?「テロとの戦い」を標語に、先進諸国はテロリストの母国をしっかりとした検証も裁判も無いまま爆撃し、関係ない一般市民を虐殺する事を正当化している。それは「復讐の掟」とどう違うのか?

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我々もまた、復讐の掟から逃れられてはいない様である。

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 遥か遠い未来の時代

「昔の人達はテロとの復讐合戦で、こんなものを作っていたんだよ!今となっちゃ風流な眺めやねぇ!」

 なぁんて言いながら、我々が築いた軍事施設の残骸を眺めながら、未来の旅人は旅しているかもしれない。

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 因みに因習と言うものは、社会情勢が悪化し法治体制が緩んだ時、過去の傷が疼き出す様に復活する。社会情勢が揺らいだアルバニアでは、現代に復讐の掟が再現し、掟に恐れ学校や社会に出れずにいる子供達が問題となっている。