シルクロードを西へ!新疆編9クチャ2

 郊外からクチャ市街へと戻った。私を市街まで乗せてくれた運転手は漢民族。彼は言う。

「此処周辺は貧しいウイグル族が暮らす地域、何も無い。街を散策するなら何でも揃う新市街が良いよ。」

 中国政府の指針によって多くの漢民族ウイグル自治区流入している。それに伴い両者の間で決定的な溝が出来ている。それは双方の人々に触れる事で、その緊張が犇々と伝わってきた。

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(クチャ・モスク)
 ユダヤ人とアラブ人が敵対するパレスティナセルビア人とモスリム人、クロアチア人が三つ巴で敵対するボスニア・ヘルツェゴビナ。旅を続けているとそうした民族同士のいがみ合いの狭間に立って胸が締め付けられる想いになる。双方ともそれさえなければ人間的には誰もが素敵な人々だから。

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(クチャ王府)
 ウイグル自治区に進出してきた漢民族、元から暮らすウイグル族漢民族のドライバー言う通り、双方には決定的に所得も生活水準も隔たりがある。しかしながらシルクロードを旅しに来た私にとって目指すべき場所はウイグルの街だ。幸運な事にウイグル族が郊外に追いやられてしまったトルファンと違い、クチャでは未だ街の中心部にウイグル族の居住区が隣接する形で残っている。

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 そこでクチャのモスリム達の信仰の中心、クチャ大寺や昔のクチャ王の宮殿、クチャ王府等を見学したが、それより日干し煉瓦で建てられた街並み、ポプラ並木、そして其処を行き交う驢馬車にシルクロードを旅している実感を犇々と感じた。彼等は確かに貧しい、しかし驢馬車の流れで流れる彼等の時間は、時間に追われる現代の人々より豊かに感じる。

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 しかしそんな彼等を脅かしているのが中国政府だ。1996年までに50回にも及ぶ核実験がウイグル人が暮らすシルクロードで行われている。それは他の国と違い、住民に告知もせず、避難もさせずに行った、人権無視の極悪非道な核実験であった。

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 一説によると20万人のウイグル人が核実験により命を失い、200万人にも及ぶ人々が放射能の影響により苦しんだと言われる。これは人権無視の核実験を通り越し、異民族であるウイグル人を抹殺しようと企んだ大虐殺だ。

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 また当時日本は、NHKの特集の影響もあり、大のシルクロードブームが起きている時に被っており、当時この地を旅をした者の多くが実は被爆していた可能性もあると言う。また、当時西遊記三蔵法師役でロケに訪れた夏目雅子さんも、この地で被爆し骨髄性白血病を患う事となったと言う風説も残る。

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 その噂の真偽がいずれにせよ、中国共産党チベットウイグルで行っている弾圧は今も通じて行われており、ナチスヒトラーの行為を凌ぐ悪行と言える。(時にチベットウイグルで暴動が起きると中国政府はテロと罵るが、それは単なるレトリックに過ぎない。逆にこれだけやられて暴動が起きない方が不思議だと思う。)

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 ウイグル族の暮らす旧市街からホテルのある漢民族が暮らす新市街に戻る途中、幸運にもトルファンに続いて再びウイグル族の週一の大バザールに出くわした。イスラームのバザールは東西何処でも活気があって私の大好きな場所。そんな人混みにまみれて彼等と触れ合う。

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 漢民族には敵意を持つ彼等も私の顔立ち、出で立ちに旅人だと解るのだろう。行く先々で声がかかる。そして私が日本人と解ると彼等の表情が和む。中国の核に脅かされ生きてきた彼等にとって、二度も核爆弾を落とされながらも不死鳥の様に甦り、世界に核廃絶を訴え続ける日本に親近感と期待を抱いている人が多いのだ。

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 そんな彼等に私は大好きな挨拶を交わす。

「アッサローム・アレイコム」

 こんにちはを意味する、東は此処から西はアフリカまで、イスラーム共通の挨拶の言葉、「貴方が平和でありますように!」と言う語彙も含まれる。

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 とたん「知っているのか?」と驚いた表情で更に彼等の顔が和み

「ワレイコム・アッサローム

 と返ってくる。

「貴方が平和でありますように!」

心の底からそう思わずにはいられなかった。

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注)1988年、イギリスBBC放送がウイグルに潜入取材し世界83ヵ国で放映されたドキュメンタリー「死のシルクロード」は、新疆で行われた核実験の惨状を記録し、優れたドキュメンタリーに贈られるローリー・ペック賞を受賞した番組でもあるが、何故か日本では放映されていない。

http://www.youtube.com/watch?v=2lG9JfUVN5I

 実験場付近の住民への対策の程度の差こそあれ、アメリカはビキニ、ソビエトは現カザフスタン、フランスはアルジェリア、イギリスはオーストラリア、つまり自国では無く自国の支配地にて核実験を行っている。大国のエゴイズムは恐ろしいとつくづく思う。各国が競う様に核実験を繰り返したあの時代、どれだけの放射能が世界に舞った事だろう。今年も中国西域の砂漠から黄砂が舞い降りる季節がやって来た。