モロッコ旅行記15

 人通りの少なくなった路地裏でグイっと上腕を掴まれ、冷や汗を掻きつつ後ろを降り返ると強面のオジサンが…。

誰だ?

いや確か、何処かで見た様な…。

そうだ!今朝訪れたマドラサの管理人のオジサンだ!

「解ったか?」と言った表情でオジサンは微笑むと私の肩を抱き、往き来た道を暫し戻ると曲がり角の先を指差した。

「この道を只真っ直ぐに進むんだよ!左や右に絶対曲がっちゃダメだよ!」

 この時ばかりは有り難く答を頂戴して、私は無事ホテルまで辿り着く事が叶った。

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 翌日ローカル列車に乗り近郊の都市メクネスへ赴いた。メクネスはフェズを京都に例えるなら小京都と言った風情の街だ。17世紀アラウィー朝、ムーレイ・イスマイルの時代に首都として全盛期を迎えた。

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(マンスール門)
 彼は昔ながらの街を作り替え、新しく首都としてこの街を建設した。彼は同時代に繁栄していたフランスのルイ14世が作ったベルサイユ宮殿に憧れを持っていた様で、そんな彼が築いた街だからか、街の中心エディム広場は整然とした開放感があり、旧市街の道もマラケシュやフェズの様に複雑では無い。

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(ムーレイ・イスマイル・廟)
 しかしメクネスの繁栄も長くは続かず半世紀後には首都としての役割を終え、今ではこじんまりとした佇まいの街として残っている。見所はエディム広場に聳えるアフリカ一美しいとされるマンスール門、そしてこの街の創建者が眠るムーレイ・イスマイル廟。この廟はモロッコで唯一異教徒が見学できる廟でもある。

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(メクネス旧市街)
 再びフェズに戻り、フェズ滞在の最後に、マリーン朝の墓地へ私は赴いた。其処からは昨日私を幻惑したフェズの迷宮が一望に見渡せる。

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 本来私は人混みが苦手だ。しかし喧騒のスークを彷徨っていて、私は嫌悪感どころか安堵感さえ感じていた。その安堵感を抱いた要因はいったい何か?それは人間臭さでは無いだろうか?人が幾ら沢山いようと、人の気配を全く感じさせない寡黙な大都会とは相反して、此処では人間臭さに道溢れていた。

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 この景色を眺めていて私はふと大泣きしそうになった。私は「余命十日の旅人」今回の旅も残すところ後二日。それは最初から解っていた事。だからこそ一片の悔いが残らぬ様旅を続けて来た。人生もまた旅の様なものと気づいていたならこれまでもっと良い旅の仕方も出来たかな?

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 いやいや降り返るのはよそう。意を決して私はモロッコ到着地でもあり、また出発地ともなるカサブランカを目指して列車に乗り込んだ。