モロッコ旅行記9

 ワルザザードからサハラに続く道、荒野にオアシスが点在し、其処にクサールやカスパが残る道、嘗て駱駝の隊商達が過ぎていったこの道を旅人達はカスパ街道と呼んだ。

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 タウリルトのカスパに入場したが、内部は村落同様迷路の様に入り組み、防御の工夫があちこちに散りばめられていた。この暑さの中、内部はいったいどれくらい暑いのか心配になったが、驚く程では無い。これはモロッコの乾燥した暑さ故日陰に入ると思う以上に涼しくなる事に加え、日干し煉瓦の通気性の良さにも依るものだ。先人達の知恵に脱帽した。現代建築のコンクリート製の住居では如何にモロッコの乾燥した気候とは言えエアコンに頼らざる得ない。

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 カスパ街道をひた走れば、オアシスに辿り着く度にカスパを眺める事が出来る。今となっては殆どが廃墟と化し回りの荒涼とした風景と一体化している。嘗ては隊商達がサハラを目前として、その準備に明け暮れた活気ある村々だったに違いない。

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 途中欧州からロッククライマー達が押し寄せると言うトドラ渓谷でランチを頂いた。両側を堅峻な岩肌が聳える景勝地だ。今日も運ばれて来たのはタジン鍋。同じ鍋でも飽きないのは、鍋が同じなだけで、料理は丸っきり違っていたりするから。卵とじだったり、野菜も肉も味付けも、地域によって様々あって、開けてビックリ玉手箱的で私の大好きな料理となった。

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 昼食を摂り、暫し渓谷で一服をした後更にサハラを目指した。やがてオアシスの間隔は広まっていき、荒涼とした荒野が大地を一面に埋めていく。最後の村を過ぎると程無く道も無くなってしまう。4WDの腕の見せ処だ。

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 そんな折り私は前方に美しい湖を発見した。思わず歓声をあげるが、ドライバーに制される。

「騙されるな!あれは湖じゃない!蜃気楼だ!」

 昔の人は「逃げ水」だなんて、上手い事を言ったものだ。その美しい湖は車が走れば、走ったぶんだけ遠退いていく。神様はなんて残酷な現象をこの世に作ったのだろう?この渇いた大地で旅人が一番欲するだろう水の幻を見せつけるなんて!

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 そして逃げ水を追いながら走り続けた先に、私は異様な光景を目撃した。まるで巨大な橙色の化け物が大地に覆い被さっているかの様な…。それこそがサハラ砂漠だったのだ。それはサハラ砂漠の西の果て。遂に私はサハラ砂漠の入り口に到着した。此処からは4WDにオサラバして、嘗ての隊商達と同じく駱駝に乗って彼等と同じ道を往く。