2008メキシコ旅行記3

 規定の出発2時間前を十分に残して空港に着いた私は、いつもと変わること無くEチケットをカウンターのお姉さんに差し出した。これにて一件落着事が進む筈がお姉さんは困り顔で私にEチケットを突き返した。

「貴方の飛行機は既に出発していますわ!」

 そ、そんな筈は…。突き返されたEチケットを良く見れば…

ガチョーン!」

 成る程言われる通り出発時刻を過ぎている。迂闊だった。旅行代理店が作ってくれたスケジュールばかり目を通して大切なEチケットの記載の確認と照らし合わせていなかったのだ。明らかに旅行代理店の発券ミスであり、乗るべく一本前の便を予約されてしまったのだが、チェックしていない自分にも自己責任はある…。これではこの短い日程では下手をすれば、次の目的地どころか帰国便に乗るカンクンに辿り着けない可能性もある。万事休すだった。

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(ティオティワカンに描かれた絵)
 頭には来ても、目前にいる彼女に怒りをぶつけるのは筋違いだし、一番の愚策だ。何故ならもし女神がいるのだとしたら現状彼女がそれに一番近い存在。このピンチを脱する鍵は彼女が握っているのだから。私は困り果てた顔をして彼女に涙目を作って頼んだ。

「これが私のスケジュール表です。ね?これ旅行会社のミスなんです。このまま次の飛行機に乗れないと、私は帰国出来ないで…。貴女だけが頼りなんです。どうにかなら無いでしょうか…?」

 まるで捨て子か迷子になった気持ちで空前絶後の大演技。もう彼女の母性本能をくすぐるしか方法が無いのである。人は全て投げ掛けられ頼られ、任されてしまうと弱い動物。彼女は更に困り顔で困惑を隠せない。それ!後一息!困り顔の彼女の表情を確かめながら、自分は最悪この作戦が上手くいかなかったとして、遺跡見学は諦めたとして、バスを乗り継いでなんとかカンクンまで期日内に辿り着けないか検討する。ピンチの時、ひとつの手段に全てを委ねるのは全くの愚策。滑り止めは幾つあっても足りない程だ。

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(ティオティワカンのレリーフ)
 そうこうしていると彼女の上司らしき人物が登場、困っている彼女に訳を尋ねた。私は泣き顔を崩さない様にポケットに突っ込んだ手を握り締めた。ラッキー!男の上司は女性の部下の前で、客の前で良い顔したい動物だから。そして私の目論みは的中して私は機上の人となった。

「彼は彼のミスで乗り遅れた訳では無いし、幸運にも次の便には2席空きがあるじゃないか!乗せてあげなさい!」

 勿論空席があってのラッキーだ。彼女に、彼女の上司に、そして旅の神様に、こんな時はオーバーアクションで礼を言おう。こうして事態は一件落着。とりあえず旅は計画通り進めそうだ。