2007チベット旅行記4

 夜も明けぬ早朝、朝食をホテルで包んで貰い私はポタラ宮へと向かった。ポタラ宮前には未だ夜明け前だと言うのにパラパラと何やら人が佇んでいる。私は大急ぎでチケット売り場へと向かった。

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 どうやら一番乗りは果たせた様だが、これで安心する訳にはいかない。此処は中国、整列すると言う意識は低い。更に此方は独りぼっち、ダフ屋の仲間内が別に列を作って、此方が本当の列だと言い張られたら太刀打出来ない。しかも私は逆風吹きまくりの日本人だ。しかし何時も旅の神様は私を見捨てない。残念ながら昨夜出逢った不躾なガイドとは二度と逢う事は叶わなかったが、その代わりに神様は素敵な女神を招聘して下さった。

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 私が鉄柵越しに係員と英語で問答を終え、後ろを振り返ると一人の若い中国人の女性が並んでいたので、取り敢えず英語で挨拶した。すると驚いた事にクリアな英語で挨拶が返ってきてビックリした。中国人は大抵英語が話せないし、此処に於いては、話す以前に「No English!」と門前払いされる事も多かったからだ。

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(朝のポタラ宮前、大勢のチベット族五体投地を繰り返して祈りを捧げる)
 すると彼女も怪訝そうに私が何処の国からやってきたのか?と尋ねてきたので、私が日本から来たと返答すれば、彼女も何故かビックリした様な表情を見せた。更にビックリした事は彼女がクリアな日本語で返答した事だ。

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 「まさか日本人ですか?」との私の問いに、彼女はにこやかに否定すると、自分は以前日本に留学し、その時お世話になった日本人の学生を連れてチベットを訪れていると言う。しかし日本人の学生は高山病で体調を崩してしまったので彼女が代表でチケット入手の列に並ぶことになったそうだ。

「日本人はデリケートだから…あ!でも貴方は大丈夫そうね!」

 なんだか昨夜ガイドと全く同じ台詞を彼女は言った。

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 さて彼女の何処が女神なのかと言えば、前回の記事でも記したが、中国人オバチャンは世界最強!彼女は若くともそのDNAを持っているのだ。後ろに続々と沸いてきたダフ屋やガイドの屈強な男達に

「この人が一番、私が二番、列をちゃんと作って割り込みはしない!」

 とあっという間にチャキチャキと仕切ってしまい

「此処は中国、日本の様に礼儀正しく列を作る様な連中じゃないから、隙を作っちゃダメよ!」

 と言い残し、不安そうな私を一旦置いて列から離れると、何処で入手したのか暖かい豆乳を買ってきてくれた。チベットは富士山と同程度の標高があるので早朝は身震いする程寒い。私が持ち寄った朝飯と彼女の差し入れた暖かい豆乳で、旅の話に盛り上がり寒さを忘れた。

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 私と彼女の話が一旦静まると、後ろで並んでいたダフ屋連中が彼女に何やら盛んに問い質している。どうやら私の事を話している様だ。彼女と得体の知れない言語を使って話す私の正体を知りたかったらしい。彼女は思いっきり笑みを作っている。そんな彼女が私に話しかけてきた。

「この人達貴方の事、雲南省辺りの少数民族だと思ったみたい。ごめんなさい。私も最初何処の国の人か見当がつかなくて…英語を話せる少数民族も少ないし…」 

 それを聞いて私が今度は大爆笑だった。

「良く言われるんです。国籍不明だって!ベトナム、マレーシア、インドネシア…」

 彼女の通訳を聞いてダフ屋達も大爆笑している。此処で緊張は全て溶け失せ、長いチケット受け付け開始迄が、それ以降あっという間に過ぎて行った。こうして一番乗りで翌日一番の入場チケットを手にする事が出来た。彼女も私と同じ時間だ。明日の再会を約束した。