風に吹かれて~ザンジバル旅行記5
海を股に架けて富を求めて交易を行った旅の商人達、新たな道を開拓した冒険家達、繁栄を極めた王朝、奴隷として売られていった黒人達、そして売られてきたからゆきさん・・・数奇な運命に満ちたこの島のもう一つの素顔、それを求めて私はダラダラで東海岸へと向かった。決してダラダラと向かったのでは無く、ダラダラで向かったのだ。ダラダラとは現地の交通手段で乗り合いバスを意味する。以前は何処まで乗っても1$だからダラダラなのだそうだが現在でもそう変わらない運賃だ。
イギリス統治時代があったからザンジバルは日本と同じ右ハンドルなので日本の中古車が大変人気があり、しかも当時の塗装のまま走っている。ダラダラのステーションはまるで三丁目の夕陽の様な光景が広がる。○○旅館に○○医院、昭和の時代のデザインのマイクロバスが勢揃い。アンパンマンが描かれた幼稚園バスにザンジバルの大の男達がぎゅうぎゅう詰めになって運ばれていく。
いざダラダラに乗り込めば、日本車となって急に性能アップしたそれは、名前と裏腹にあっという間に私を東海岸へと運んでいった。バスを降りてヤシの木が並ぶ田舎道を歩いたその先に信じられないような光景が私を待っていた。嗚呼この風景をどんあ言葉で表せば良いのだろう?暫しこの風景を前にして立ち尽くした。
モルディブ、モーリシャス、セイシェル、タヒチ、フィジー・・・世界に美しいビーチは幾つもある。だがその殆どが先進国の大手の資本が投入され悦の尽くしたリゾートとなってしまった。私には手の届かない写真で見たその風景は確かにパラダイスの様に美しい。だが其処は新婚さんやお金持ちの為にある場所でバックパッカーなどお払い箱だ。
現地の人々にとってリゾートはどの様に映っているのだろう?確かに雇用は増え、お金が落ちると言う利点はある。しかしある日海外からやってきた資本家が金にものを言わせ現地の一等地を買い占めそこに立派なホテルを建てる。そこで海外のセレブ達が地元の人々が到底手を出せない遊びに耽り、一生口に出来ない料理を楽しみ、泊まる事の出来ない部屋で眠る。彼等地元の人がそこに関われるとしたら、従業員としてのみだけだ。
自由な世の中になったと人は言うが、リゾートを楽しめる人々は海外から来たお金持ち、そしてそれにぬかづいて働くのは地元の人々・・・それでは往年の奴隷制度時代と余り変わってはいないのではあるまいか?そこが限られた人だけが楽しめるパラダイスなのだとしたら、そこは本当のパラダイスでとは言えやしまい。そう感じた時、私の足はリゾートと呼ばれる場所から遠ざかっていった。
では何故私は東海岸に向かったか?勿論リゾート化の波は此処ザンジバルにも押し寄せる。しかし此処にはそんな風潮を覆す、私に泊まってみたいと思わせるホテルがあったからだ。