幸せのアラビアを探して8

 駄菓子屋の前に集まった学校帰りの小学生に捕まった私は出来心で折り鶴を折ってしまった。迂闊だった。あっと言う間に黒山の人だかりが出来てしまい私は一瞬の内に彼等に大道芸人に仕立てあげられてしまった。私の折った鶴を大事そうに持って家に帰る子供達。あっと言う間に私の持っている紙は尽き、最後の一枚を巡って男の子と女の子が譲り合わずいがみ合いになってしまった。

イメージ 1


 こうなると大人の私が仲裁しなくてはならないのだがまるで収まらない。すると女の子がランドセルからノートを取り出し破こうとする。貧しいイエメンの子供の教材を破かせる訳にはいかない。私は必死に制止する。仕方ないので今度は私がガイドブックを破こうとする。すると生徒会長風の真面目な子供が私を制止し

「お兄さんが困ってるでしょ!あんたらいい加減にしなさい!」

 と叫んでいる。すると今度は悪戯っ子風の女の子が街に落ちていたゴミの紙を手で平らにしながら私に差し出しウインクをする。これで一件落着した。二人の子供に折り鶴を折って私は漸く解放された。後は下校する子供達の集団と一緒になってサナアの街を練り歩く。一人、そしてまた一人

「マッサラーマ!」
(さようなら)

と言ってイエメン建築の自分の家に帰っていく。ドアに付けられたノッカーを叩くと数階階上の小窓が 開いて子供を確認すると鍵が開く。何階か上から鍵を開けられる仕組みになっているのだ。

イメージ 2


 一見イエメン建築は可愛らしいが部族抗争が多かったこの地の建築は戦闘の防御の工夫の跡がいずこにも見受けられる。今子供が入った玄関の扉、階上から訪問者を判断し鍵の開け閉めが可能な事も防衛に役立つし、玄関の間口は異様に背が低い。何故ならもし敵が侵入しようとしても間口が低いので頭を下げる格好で門を潜らなければ中に入れない。頭を下げて頭から門を潜って入って来た敵を、中で守る人間は真っ先に頭を狙って剣を降り下ろし仕留める事が出来ると言う寸法だ。だからイエメン建築はどれも玄関の扉が低く出来ているのだ。

イメージ 3



 子供達が彼等の住む世界遺産の家に一人、また一人と吸い込まれ、やがて最後の一人と別れる頃、サナアの街に夕暮れが訪れる。私は再びイエメン建築のホテルの屋上に上がらせて貰った。