幸せのアラビアを探して6

 ごった返す人々に紛れてイエメン門を潜りスーク(商店街)に吸い込まれていく。狭い通りの両側には所狭しと小さな商店が連なっている。余りに間口が狭くて出入り出来ないから商店の店主はロープを使ってターザンの様に品物を飛び越えて出入りする。

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 アラブのスークの特徴は業種毎に一塊になって商売をしてる事だ。なので街角を曲がる度に此処は香辛料、此処は布地屋さんと言った具合に風景が変わる。アラブのスークは商店だけに限らずフンドックと呼ばれる旅の商人用の宿屋や彼等の為のハマム(サウナ)も用意されている事が多い。スークは単なる商店街に留まらず、交易の為の総合施設として機能している。

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 こうしたスークを整え、旅の商人達に街の利便性をアピールする事で、彼等の街は栄え繁栄を勝ち取ってきた。だから交易の民であるイスラームの民は旅人をもてなす習慣がある。此のような繁華街ではスリに気を付けるのは世界の共通した注意事項だがイエメンではそんな必要は無用だ。交易で生計を立ててきた彼等にとって、盗みと言う犯罪は日本の我々より遥かに重罪だと言う意識が強い。なので敬虔なイスラーム教徒の多いイエメンでは盗まれる事が殆んど無い。ホテルの部屋に鍵をかけず外出しても安全だ。それで盗まれたら他の国から訪れた観光客を疑うべきだ。

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 これは何処の国でも同じ事だがスークには人情が溢れている。香辛料のスークでは黒いベールを纏った主婦が腕を振り上げて値段交渉に花を咲かせている。一方男達が熱い眼差しを送るのはジャンビーアと呼ばれる半月刀のスークだ。ジャンビーアはイエメンの男達の誇りの印、殺傷能力のある列記とした剣だが、これを振りかざす時は男の誇りに傷がついた時のみ、日本の侍に通じる使い方である。流石誇りの逸品だけあって、鞘等パーツ毎に店が分業する程のこだわり様だ。

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 その光景はアラビアンナイトそのもののエキゾチックなものだが、その根本は日本の商店街となんら変わらない庶民の暖かい日常に満ちている。いや昨今ショッピングセンター化しショーウインドーに阻まれてどこかそっけない日本の買い物よりずっとダイレクトに人々の活気が伝わってくる。

 そんな喧騒のスークを抜けると 静寂の住宅街がそれを取り囲むように広がっている。