旅は感無量にて

 最終日は半日猶予がある。しかし全くプランが浮かんで来ないのだ。遂に旅人として一番大切なものさえ出し尽くしたか・・・。有名所は昨日見てしまった。普通なら街歩きは楽しいものだが、最早東京とそれ程変わらない街を歩いて何になるのか・・・私は行き詰まっていた。そうだ!ネットで検索してみよう!

 流石大勢の日本人の訪れる台北、沢山の旅行記がヒットした。食い倒れ台北!初めての女一人旅!・・・私はそれを読みながら涙してしまった。嗚呼なんて私は馬鹿だったのだ!そこには旅慣れては?いなくても必死に旅を楽しんでる人々の想いが綴られてた。

 余りテクニック使わなくても旅出来るし、日本と同じ様なものだから、トランジットで訪れただけだから・・・自然と傲慢な気持ちになってた。足がもう痛くて動かない。風邪引いてだるい・・・いつのまにか弱い自分に甘えてた。初めて来た彼女達の方がよっぽど旅人してるじゃないか!

 ワインオープナーで足の裏を刺す。さぁ動き出せ!最期の力を振り絞れ!目の前のものを前向きに楽しめて旅人だ!その時に体調を整えられるのが旅人だ!

 ガイドブックをパラリと振って、なるべく古い町並みのありそうな所から闇雲に歩き出す。うんうん良い感じになってきた。変な廟がある。そして唐突に名も無い地元の屋台街に出くわす。庶民の生活がのぞき見出来る。昔は日本もあんなだったな・・・。

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 そして時間も迫って来た。最後に辿り着いたのは中華の必須アイテム孔子廟だった。そして最後にそこで私が見たものは・・・なんと孔子様が・・・ユルキャラになってた(笑い泣)

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こうして私の旅は終った。

 そして日本の入国の時、普通なら無口の審査官が

「あのすみません。出国スタンプは何処に押してありますか?」

パスポートを受け取りここら辺ではないかと指し示す。


「すみません。ありました。いっぱい有りすぎて見つけられませんでした。いっぱい旅をされて来たのですね!」

 ミャンマーでも台北でも同じ様な事が起き同じ台詞を頂いた。もう私のパスポートは殆どスタンプで埋まってしまっている。後1ページは残っているが、今回各審査官が何とかしようと無理やり押した為、ページは開いたが、その為スタンプが見つからなくなってしまったのだろう。

 2005年8月3日私はこのパスポートを取得した。私は日雇いみたいな事をしながら旅を続けている。老後も儘ならない生活だろう。仕事を勤め上げてから海外へなんて余裕ある生活は無理だ。だからその時思ったんだ。これが今生最期に無理無茶出来るパスポートとなる。だから死ぬ気でこのパスポート使いこなしてやる!って。

 私の赴く先の国々は大抵パスポート失効日より6ヶ月迄に入国しなければならない。つまり今年の2月3日で事実上私のこのパスポートは終了する。スタンプももういっぱいになった。つまり今回の旅がこのパスポート最期の旅。審査官の言葉は本当に素晴らしい労いの言葉に聞こえた。感無量だった。

 成田発最終バスに乗り最寄駅でコンビニでワインを買ってタクシーに乗った。もう足は大きく引きずっていた。家に帰ると着替えもせずにワインを開けた。

 この10年に賭けた私の想いが完結した。あっという間だったな・・・イスラームと言う大きなテーマを旅したが、何故かアンコールワットに始まり、バガンで終った。東南アジアのはにかんだ笑顔・・・

あれ・・・体が動かない・・・燃え尽きたな・・・

ワインが倒れる。ゴボゴボゴボ・・・

記憶も薄れていく

思わず首からかけっぱなしだったパスポートを抱き抱えた。そう言えばこの10年間、旅してる時、常に欠かす事無く私の胸にあったもの。

ありがとう!

本当にありがとう!

感無量・・・

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(完)