旧ユーゴスラビアを旅する完全版+クロアチア・プリトヴィツェ編

 さて再び時計を巻き戻して今回の旅へと戻ろう。ベオグラードから夜行バスでザグレブに到着した私は、本来5時半にプリトビツェへ向かうバスに乗り継ぐ筈だった。しかし迂闊にも今日はクロアチアの祝日。5時半のバスは休日ダイヤで無し、折角混雑を避ける為月曜を予定に入れたのに、これでは遅く到着するばかりか混雑にも巻き込まれてしまいそうだ。

イメージ 1


 プリトビツェ湖群国立公園はドブロブニクと並んでクロアチアが誇る世界遺産で、クロアチアの観光収入のドル箱とも言える。ドブロブニクとは打って変わって自然遺産であるが、此処もまた紛争中は激戦地だった事はドブロブニクと共通している。

イメージ 2


 祝日ダイヤで二時間遅れで到着した私は焦る気持ちで湖へと向かった。日帰りで訪れる一般的な観光客は手頃なコースを辿るのだが、折角来たのだからと欲張りな私は殆ど遊覧船やエコロジーバスと言った移動方法を使わないKコースに挑戦したかった。帰りのバスを考えればギリギリの設定だ。

イメージ 3


 本日は生憎の曇り空で湖の色も沈みがち、これまでオフリド湖アドリア海と透明度が高い湖や海をいっぱい見てきたから、此処が透明度が高いと聞いても別段もう驚かない。だが、此処の特別なところはその地形にある。ゆったりとした斜面を河川が段々畑状に流れ、幾つもの湖を形成している。そして段々の場所には無数の滝が流れており、世界で無二と言える景観を形成しているのだ。

イメージ 4


 Kコースはトレッキング大好きな一部の欧州人以外は殆どパスしてしまうので、Kコースを歩いている内は長閑な景観をゆったりと楽しむ事が出来る。かなり高度が高い部分から湖群を見下ろしたり、静かな湖畔を歩くのはとても癒される時間だった。

イメージ 5


 だが見所も近くなると各コースが合流する。すると状況は一変する。コースの殆どは尾瀬にある様な二人並んで歩くのがやっとの木道を歩く事になるのだが、此処に多くの観光客が集中する。更に皆所々で写真を撮るので渋滞する。老若男女で歩くスピードにも差があるし、それに団体ツアーが重なろうものならもう大変。急ぎたいのに抜かす事もままならない。この余りの混雑に世界遺産として危機説があるがそれも頷ける。

イメージ 6


 勿論見所としては素晴らしいし、ダイナミック且つ繊細な自然美を堪能する事は出来たのだが、見所を終え、各コースに道が分岐する箇所に辿り着いた時、少しホッとしてしまったのも事実である。しかし、此処で私はとんだ失態をしてしまった。先程の見所の場所から、解り辛いが分岐する道があり、其処を進めば野村不動産のCMとして使われた絶景ポイントに行ける筈だったのだが、混雑に紛れているうちに逃してしまったのだ。もう戻ると他が見れなくなるから先に進むしかない。

イメージ 7


 しかし、そこから少し進んだところで私は立ち往生してしまった。切り立った岩が湖に落ち込み、其処で道が終わっている。私は引き返しがてらに進んできた旅人に、この先道が終わってると告げながら他のコースの合流箇所まで戻ろうとした。しかし私が話しかけた中で、屈強そうな一団が、そんな筈は無い。我々は何としてもKコースを進むのだ。ってノリで先に進んでいった。頼もしい!私も再び引き返し彼等に続く。頼もしい男は最初こそ躊躇していたが、水没しているが足が届く箇所を頼りに先に進み、岩の向こう側に進めるルートを確保した。そして全員手に手を取って岩の向こう側に辿り着いた。いったいどう言う整備具合なのだ?元よりKコースなんて歩くのはとんだ物好きなので、それほど整備が必要無いのかもしれないが…。

イメージ 8


 そんなコースなので人混みは解消されたものの、見所は少ないし道路状況は悪く、靴を泥だらけにしては水没したタイミングで洗うと言った状況。更にKコースは湖畔の道があると言うのに何故か山道を指している。湖を見に来たのに登れとはこれ如何に?とは思いつつも、此処までKコースを歩いて、それを断念するのも悔しくて山道を進む。

イメージ 9


 見たかった場所を見れず、靴をビショビショにし、更に登り道で私のテンションはがた落ちだった。グングン道は登っていき、そして二手に別れた。手前を歩いていたインド人が右に行った。天の邪鬼の私は左に向かう。しかし道はすぐに行き止まった。そしてその先にある光景に私は絶句した。こ、これは…野村證券のCMを越えたかもしれない。

イメージ 10


 更にこのポイントの良いところはKコース上にあり、更に看板も無く分岐しているので滅多に人が訪れない。ひとしきり写真を撮り終えると、本当はNGだが煙草をゆっくり1本吸わせて貰った。勿論吸い殻は持ち帰りだ。でもこの激混みの国立公園で煙草1本ふかしてみつからない場所も珍しい。

イメージ 11


 道はある程度登りきると今度は急激に降って再び湖畔に沿って木道が続く。空を覆った雲が一瞬切れると湖の色が信じられない様なエメラルドブルーに輝く。至るところに幾重にも重なり滝が飛沫をあげる。マイナスイオンがそこら中に飛び交っている。しかし見所があるところ各コースの重なる場所と言う事で、歩速の早い私はあっという間に渋滞の末尾に追い付いてしまう。

イメージ 12


 なんとそこにいたのは日本人のツアー客の皆様だった。私は笑顔で挨拶するけど、何故か日本人のツアーの人々は無愛想に相槌を打つ程度の人が多い。確かに海外まで来て日本人と顔会わせるのは良い気持ちしないかもしれないが、私だってグッと堪えて笑顔で挨拶してるに、なんで笑顔で返事を交わせないのだろう?つくづく不思議な人達だと思う。

イメージ 13


 そんな光景を見ながら25年前、西欧を一周した時の事を思い出した。あれはドイツのとある古城での出来事。古い古城の中を見学していたら、狭い部屋で日本人のツアー客が大勢いて、ガイドさんが説明をしていた。私はそこを無理くり通る事も出来たが、それじゃ気を削いでしまうだろうと部屋の外で説明が終わるのを待っていた。するとどうだろうガイドさんが言うのである。

「ちょっと!説明を聞かないで頂けますか?」

 流石にこれには私も切れた。

「貴方達が部屋を占領して説明しているから私は待っていただけです。それに私はこの城についてしっかり予習して来てますから、貴方の説明等必要ありません。すみませんが道を開けて頂けませんか?⚪⚪旅行者さん。」

 日本の社畜は威張っていても会社の名前を名指しされると一瞬でおとなしくなるから滑稽だ。その後ヨーロッパでは団体旅行に対する規制が厳しくなった。こうしたトラブルが絶えなかったのだろう。スペインのサグラダファミリアアルハンブラ宮殿は予約制になったし、ローマは一定の地区に大型バスは入れない。そう言えば近年ドブロブニクも大量の観光客を乗せる大型客船の入港を規制する事になったそうだ。此処プリトビツェも近いうちに何らかの規制をかけねば事故に繋がるケースも出てくる事と思う。

イメージ 14


 結局日本人ツアーは決して後ろを気にする事も無く、私も彼等の速度に合わせてはいられないので、「すみません!ちょっと通してください!」と叫んで一人一人声をかけてやっとの思いで先に進んだ。6月中旬でこれだけ混むからピークはいったいどうなってしまうのだろう?

イメージ 15


 一部、観光客の多さには辟易したが、それでも尚プリトビツェの素晴らしい自然美は堪能できたし、マイナスイオンも存分に浴びた。旅は往きはヨイヨイ帰りは怖いものだが、心配していた帰りのバスの混雑も無く無事ザグレブまで戻る事が出来た。明日はザグレブを見る事無く未だ見ぬ何処かに向かう。場所は今夜考えよう。