旧ユーゴスラビアを旅する完全版+スマホと旅

 世の中はスマホの登場によって躍進的に変わったが、それは旅にもあてはまる。添乗員が全てやってくれるツアーなら兎も角、自分で全てをこなさなければいけないバックパッカースタイルの旅人にとって、スマホは革命的だったとも言える。

 その日の思い付きで行動を変える旅では事前に宿を予約なんか出来ない。昔なら移動し新しい街に到着すると、地球の歩き方や現地のインフォメーション或いは過去に泊まった宿に置かれた旅人が書き残した情報ノート等から宿の住所をメモし、それらをしらみ潰しに当たっていくしか無かった。バンコクコルカタ等安宿街がある場所なら、一軒が満室でも隣を当たれば良いが、そうでは無い街となると一軒一軒の満室が結構旅程にも体力にも響いてくる。

 あれはイースターブダペストイースターである事を忘れて夕方に近づいてから私は宿探しを始めた。しかしイースターと言うヨーロッパでも大きい行事の最中なので何処もかしこも満室。本当心折れそうになった。寒空の中、野宿かと思った日も変わる頃、やっと一軒見つけてホッとした事がある。

 そこまで時間はかからなくとも、移動が多い旅になると寝床探すのも結構な時間のロスであり体力のロスでもある。一年とか時間をかけて世界を一周しているならともかく働きながら旅をする様になると、その時間ロスは致命的に感じた。だから一時期宿泊と移動はセットになった現地フリーのツアーも良く使ったが行き先が限定されてしまう。

 しかしスマホが登場して環境は一変した。Booking.comを筆頭に安宿情報が簡単に検索、予約出来てしまう。ちょっと前でもパソコンを持ち運んでいればネットを使用する事が出来たが、スマホの登場で格段に使い勝手は良くなった。

 Googlemapはオンラインで無いと使えないが、オフラインでもGooglemapと同じように現在地を把握しながらナビゲーションが可能なMaps.meが出現した。Maps.meとBooking.comは連動しているので、Booking.comで予約してMaps.me見ながら宿に向かえば一発で寝床探しは終了する。今回の旅でもこれを駆使して寝床探しに観光の時間を全く削る事無く旅をする事が出来た。つまりスマホの登場は旅する時間を大幅に増やしてくれたとも言える。

 またBooking.com等ネットでの予約サイトの登場は、宿泊業の形態も変えた。今回、安い物件の多くは個人が空いている部屋を貸すアパートメントタイプのもの、或いは民宿のタイプが殆どだった。これらは外見上では全く宿泊施設とは解らない。だから街を歩いて見つける事が出来ない。インフォメーション等に登録してる場合もあるだろうが、今時代圧倒的に予約サイトの方が情報を持っている。旅する場所にもよるだろうが、今日では安く泊まろうと思ったら、スマホ無しではやっていけないのではとさえ感じる。

 更には予約、購入からチェックイン迄全てスマホのアプリだけで済ませられるバス会社を筆頭に、様々な施設でスマホから予約~購入が可能となった。逆に言えばスマホを持っていないと不利になるばかりか、予約すらままならないなんて事すらある。

 なんでこんな事を書き出したかと言うと、今回旅の途中でスマホを半壊してしまい、危うくスマホが使えないと言う状況に陥ったからだ。その時私は恐怖を感じた。スマホが使えないと言う事は、従来通りの方法で宿を探さなきゃいけない。目星をつけた宿を一軒一軒当たり、それも紙の地図を現在地もあやふやなまま探し当てる。勿論看板も出さない様な安アパートは見つける事が出来ない。時間も、体力も、出費もどれだけかかってしまうのだろう?諦めなきゃいけない旅程も多くなるだろう。

 更にスマホには時刻表や旅の方法等様々なものを検索して記憶させていた。スマホが壊れると言う事はガイドブックを失ったとも言える。更にバカな事に私は時計代わりにもスマホを使用していたものだから時刻すら解らない。国を移動すると時差がある場合があるから非常に厄介だ。スマホを失うと、何も出来なくなっている私に驚愕した。

 ただ、時にこうも思う。スマホの登場以来余りにも効率的に旅が可能になった。昔なら個人で旅をしていると宿探し等色々時間がかかるから、ツアーと同じコースを辿るのにはツアーの日程の倍とまではいかないにしろ余計時間がかかったものだ。でも今なら急げばツアー以上の速度で回る事だって可能だろう。

 でも昔なら宿を探して余計な道を何度もいったり来たりして、無駄な時間と無駄な体力を使ったものだけど、結局それさえ街歩きの一貫であり楽しさのひとつでもあったと思う。一泊一泊移動を重ねて、効率的に旅が進んでいく中、十年前なら決してこのペースで旅出来なかったと嬉しく思う反面、何かを失ってしまっているのではないかと恐ろしく思う気持ちもある。