旧ユーゴスラビアを旅する完全版+モンテネグロ・コトル編

  ブドヴァからコトルに移動した。コトルは他のアドリア海沿いの街と違いアドリア海から深く切れ込んだ入り江の最深部に街がある。背後には急峻な山々がそそり立つ。山肌は岩の質のせいか、太陽光線の具合で黒々と見え、モンテネグロ(黒い山)と言うイメージも国名を成る程と頷かせられる。更にその山肌には総延長4キロ以上にも渡って城壁が築かれている。まさに鉄壁の防御体勢を整えた海洋都市だった事が伺える。コトルもブドヴァ同様ヴェネツィア共和国支配下の都市であり、その名残は街に刻まれたサンマルコの紋章や、土産屋に並べられたヴェネツィア名物のマスクを見る事が出来る。

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 街の規模はブドヴァ同様可愛らしい程小さい。東方正教カソリックの教会が共存しているのも同様だ。観光客はブドヴァより若干多く感じる。これはコトルが世界遺産に認定されている事、同じく世界遺産ドブロブニクから近い事等の理由が挙げられるだろう。それと巨大な豪華客船も立ち寄っていた。

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 コトルは小さな街なので簡単に街を一周出来る。街歩きが一段落したら、街の背後に聳える山に沿って設けられた城壁を登る。これがこれでもかと言わんばかりに続いていてビックリした。ヴェネツィアオスマントルコの攻撃に備えて築いたものだろうが、敵襲の知らせがあったとしても、この城壁を防具を着用して登れば、頂上の要塞に辿り着く迄に体力が尽きてしまいそうだ。

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 次第にコトルの街が小さくなっていく。途中教会が建っている辺りが一番風景的には絵になるだろうか?それを過ぎても城壁は続き要塞跡まで続いている。

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 城壁を下り再び旧市街を散策する。旧市街の狭い道に観光客が行き交うコトル。雰囲気は満点だが、長く歩けば若干圧迫感を感じる。そう思ったなら城壁から外に出れば開放的な港はすぐ側だ。

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 港に出ればクルーズ船の勧誘を受ける。乗って見ようとコースを伺う。外海まで出て青の洞窟まで行くと言う。青の洞窟と言えば本場はイタリアだけど、アドリア海沿いも色々同名の名所があるらしい。此処の青の洞窟は泳げるのが売りの様だ。

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 指定された時間に海水パンツに着替えて集まったのだが、なんと最小人数に達していない。折角海パンに着替えたのに!と思っていると、どうやら違う船は出港する様だ。もう泳ぐ気満々の私は「ゴメン!裏切らせて貰う!だって海パン無駄になっちゃうもん!」と言い残し出港寸前の船に飛び乗った。

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 船は思っていた以上時間をかけて進んでいく。コトルがある入り江は思っていた以上に深い湾だった。アドリア海は外海に出ても波が立たない。そんな外海に幾つか洞窟があり、船はそのひとつの洞窟に入っていった。成る程洞窟に陽が射すと洞窟内の海が妖しく青く光る。いっせいのせで皆飛び込んだ。なんて言うか、本当に妖しい。如何わしいホテルのプールで泳いでいる様な…。下から青いライトで照らされている様な…。

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 泳ぎ疲れた一行を乗せてボートは途中幾つかのポイントを経てコトルへと戻った。ホテルに戻ってシャワーを浴びて、城壁外の海の見えるレストランで奮発して今日もV.S.O.P(ベリースペシャルワンパターン)のシーフードリゾットを頂いた。今晩のリゾットはチーズがふんだんに使われていてちょっとドリアっぽかったけど美味しかった。

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 ブドヴァ、コトル…ヴェネツィア共和国に支配された二つのアドリア海の街を巡った。どちらもセルリアン・ブルーのアドリア海に橙色の屋根瓦が映えて、息を飲む程美しい、可愛らしい街だった。ムサイ男の一人旅が来て良いものかと悩む程に。

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 これだけの美しさを誇るから、誘致等しなくても観光客は集まり街は賑わう。お呼びじゃない程集まる観光客は大きな金を此処に落とし、それは街のサービスの向上に繋がり、サービスも洗練されていく。この街で働く者の出で立ちも振る舞いも、二日前に滞在していたコソボの人々よりずっと洗練されたものかもしれない。

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 そしてそれは旅の本質も変えたと言っても良いと思う。コソボモンテネグロ、その国境を越えた時、大きく変わった事がある。それはローカルな人々との会話もグッと減ったと言う事。だからと言ってモンテネグロの人々が冷たいと言いたい訳では無い。これ程観光客が詰めかけられたら、一々一人一人の観光客に構ってられる暇も無いだろう。

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 ただ、バックパッカーのバイブル「深夜特急」の著者沢木さんもその著書の中で書いている。アジアではバスターミナルに到着すると、両替屋、宿屋、タクシーの運ちゃん等が勝手に話しかけてきて、勝手に物事が進んでいく。しかしヨーロッパに入った途端、誰も話しかけられず、此方がアクションを起こさない限り、決して物事が始まらないと。

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 観光客の多さ、少なさ、貧富の差、こうした事もあるのだろうけど、本質的に文化の違いもあるのだろう。観光に夢中になっていると忘れ去っている事が一人食事を摂っているとふと脳裏を掠める。ちょっぴり孤独を感じたコトルの夜だった。