ブータン旅行記12 タクツァン僧院後編

  第一展望台で英気を取り戻した私は更に急になった坂を、ガイドさんと戯れながら息を切らせながら登っていく。やはりツアーなどで足や体調に不安を抱える人は、此処で待つ人も多いらしい。

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 登山を再開すれば、鮮やかな5色のルンタが疲れた体に元気をくれる。ルンタとはチベット仏教独特の風馬旗で青、白、赤、緑、黄の5色から成り、それぞれ天、風、火、水、地が表され、それぞれに経文が書かれている。仏法(幸せ)が風に乗って世界に拡がる様に願いがこめられたものだ。

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 チベット仏教徒は自分の為に祈りを捧げない、世界に向けて祈りを捧げる。そうして積んだ徳が、いつの日か幸せとなって自分に戻ってくると信じているから。だからルンタは自分の為の祈りでは無く、世界に向けての祈りだ。祈りの対象は人間に限らず、生きとし生けるもの全ての平和を祈っている。素敵だな。

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 ブータンは人が亡くなると火葬で弔うが、輪廻を信じているので、遺灰は川に流し墓は作らない。ダルシンと呼ばれる経文の書かれた白い縦長の旗を山等に立てる。ルンタと同じく、風に経文が乗って天に届く様祈るのだ。東北大震災の時、ブータン中にダルシンがはためき犠牲者の追悼が祈られたと言う。国王だけでは無く、国民中が祈ってくれるなんて、素敵な国だな、ブータンは。

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(ダルシンとチョルテン プナカ)

 また、ツァツァと呼ばれる小さな仏塔を供える。火葬された灰の一部と土を練って108個のツァツァを作って聖地に飾り冥福を祈る。それもやがて土に戻り輪廻する。

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 風が吹いてきた。登るに連れ坂も若干緩くなった。ルンタと共に舞い上がった気持ちで先を目指せば、願いが届いたか、目指す先には天女が数人集合写真を撮ろうとしている。遂に私は到達したのだ!急坂を駆け登ると天女達に

「私が撮って差し上げましょうか?」

 追い付いて来たガイドさんに目配せして(出番だぞ!)とガイドさんにカメラを渡してちゃっかり天女さんと写真に収まる私。

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「さっきまであんなに死にそうな顔していたのに…。女性を見るや否や…。」

とガイドさん。

「女性を見たら格好つけるのが日本男児の習わしです!」

「何言ってんだか…。」

 そんなやりとりはさておいて、此処第二展望台からの眺めは凄まじかった。ガイドブックやパンフレットそのままの、断崖絶壁にへばりつく僧院が目前に迫っている。

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 だが此処から僧院までは岩場の急峻な崖を一旦奥の奈落の底にある滝壺まで降りて、再び上がらなければならない。

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 旅行記を読めば、人によっては最期のこの階段の登り下りが一番シンドイと書いている人もいたが、私は真逆だった。

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 ターゲットを目前にすると、疲れどころか我をも忘れる。(タチが悪い(笑))

「写真は戻りの時に存分に撮りましょ!」

 と袖を引かれつつ階段を降り

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 ルンタ乱舞する滝壺でマイナスイオンを浴びて

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 見上げればタクツァン僧院が早く此処まで来いよ!と誘ってる。

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 最後の力を振り絞って、最後の石段を登り詰め漸く僧院へと辿り着いた。

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 ブータンではグルリン・ポチェ(インドやチベットではバドマ・サンババ)がこの地に舞い降りて初めて仏教をもたらしたと信じられており、つまりこの地こそブータン発祥の地として最大の信仰を集めている。僧院の中は写真を含む一切の手荷物を持ち込む事は出来ないが、信者ならずとも此処が霊験あらたかである事は存分に感じられた。

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(旗が連なっている部分が登山道 )

 帰りの谷の登り下りも、写真を撮っていると疲れなんて吹っ飛んだ。

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ルンタが風に舞って

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世界中に平和の祈りを広めていく…

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 第二展望台までくれば後は下りだ。滑りやすい部分が多く、何度もずっこけてガイドさんをヒヤヒヤさせたが、下りは楽なもので余裕が出来る。

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 余裕が出来ると周りが見えてくる。尾っぽの長い不思議な鳥が飛び去っていく。髭の様な不思議な植物が木に絡んでいる。上部から下部へ降りると木の植生も変わってくる。

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 再びスタート地点に戻った。振り返れば岩壁の中に小さく僧院が嵌め込まれている。良くあんなところに築いたなと思うと同時に、良くあんなところまで登ってきたなと思う。

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 タクツァン僧院の帰りにキチュ・ラカンへ寄った。ブータンで一番古い寺院だと言われ、7世紀にチベットを統一したソンツェン・ガンポ王が築いた。当時チベットを支配していた羅刹女のツボを封じる為の13ヶ所の内の一ヶ所がこの場所だったから建てられたそうだ。

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 タクツァン僧院はブータンの人々にとって随一の聖地だが、観光客にとっても記憶に残るアトラクションだと思う。美しい建築と断崖絶壁の自然とのコラボレーション。そして其処へ歩いて登らなければならない苦労が伴う事で、一層忘れ難い思い出になる。しかもその行程は老若男女問わず一日の運動に絶妙な分量。素晴らしい一日だった。