ボロブドゥールの朝焼け

ボロブドゥールの朝焼け
 遺跡内のマノハラホテルでは夕食後地元の民謡が庭先で披露されていた。

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その向こうにはライトアップされたボロブドゥールがボンヤリと浮かんでいる。

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否が上にも期待が高まる。折角珍しくしっかりしたホテルに泊まったと言うのに、翌朝の天気のコンディションの心配と、期待に昂った気持ちでしっかり眠れず翌朝を迎えた。

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未だ夜も明けぬ頃、ツアーはホテルを出発する。ツアーとは言っても入場時間外の遺跡に入場させてくれるだけで、後は自由行動、自由解散だ。ツアーで貰った100円ショップで買える様な心細い懐中電灯の明かりを頼りに漆黒の遺跡の階段を登り、無色界である円形壇まで登り詰め、その時を待つ。

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この旅のメインイベントは幕を開けた。願いが叶い、空は絶好のコンディションだ。旅の神様は最高の舞台を整えてくださった。その一瞬を切り取れるか?後は全て自分次第、言い訳は効かない。ゴクりと唾を飲み込んだ。

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東の空が薄ボンヤリと明るくなる頃、一番鶏の鳴き声が静寂を破り、その鳴き声に触発されて、一斉に鶏が朝の到来を知らせる。

「太陽の光に弱い精霊達が一斉に去って…」

ロロ・ジョグランの一節を思い出す。

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懸念していた朝靄は、空を覆い尽くす事は無く、大平原に低く立ち込め、幻想的な風景を醸し出している。その朝靄の上を南国の鳥達が飛び交う。「アメイジング!」思わずあちこちから溜め息が漏れた。

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でもおちおちとはしていられない。その時を狙うカメラマン達が自慢のゴツい一眼レフを、仰々しい三脚に設置して場所取り合戦。対する私は子供騙しの安物コンパクトデジカメ。でも、美しい一枚を切り取ろうとする気持ちだけは絶対に負けない!

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南国の日の出は思う以上に早い。太陽がズドンと真っ直ぐ昇るからだ。東の空は薄紫から橙色へと急激にその色を変えていく。緊張の一瞬でもある。

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大平原の向こうのムラピ山の間から顔を出した太陽は強烈な光を放ち、ストゥーパが、仏像が、逆光を浴びて影絵の世界を作り上げる。御来光の瞬間だ。

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ある者は座禅を組み瞑想に耽る。ある者はカメラを構える。シャッターの渇いた音のみが木霊する

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信仰心の無い者まで神聖な面持ちにさせてしまう。まるで本当に無色界に迷い込んだかの様な、泣き出してしまいそうな、そんな瞬間だった。無意識の内に手が合わさる。

「旅の神様、ありがとうございます!」

大地の彼方でムラピ山から出る噴煙が棚引いて影絵に彩りを与えてくれる。

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しかしそんな長閑な光景が2010年、大規模な噴火となって、06年の震災から復興を遂げようとするジョグジャカルタの人に再びの厄災となりボロブドゥールも甚大な被害を被る事となった。

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いや、ムラピ山の噴火は今に留まらず歴史的に繰り返されてきた。嘗てこの地に繁栄してきた諸王朝を滅亡へと追い込み、そしてボロブドゥールを火山灰で覆い隠した。(注) こうしてボロブドゥールは千年もの間、人々の記憶から忘れら去られた。

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その眠りを覚ましたのはイギリス人のシンガポール都督。ラッフルズ・ホテルで有名なラッフルズ卿。それ以降大規模な修復を終え、世界遺産に認定され今日に至る。

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神々しい一瞬が終われば、太陽はいつもと変わらない強烈な南国の陽射しとなる。眼下を見下ろせば、開門時間を迎え、痺れを切らした大勢の観光客が一斉に遺跡に登ってくる。それはまるで城門を打ち破って攻め込んで来た敵の大軍勢!慌てて逃げる城主の様に逆の階段から遺跡を降りた。

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至福の時を終え、ボロブドールを後にして、現地のバスを乗り継いで私が向かったのは、二つの遺跡の拠点となる街ジョグジャカルタ。現地の通称ジョグジャだ。この街も歴史的な古都であり今日ではインドネシアの学園都市。素通りするには勿体無い街である。

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ボロブドゥールから眺める朝焼けは、2012年、アメリカCNN 選出の「死ぬまでに見ておきたい絶景27選」にて、堂々一位に選ばれました。

(注)ボロブドゥール遺跡が地中に埋まっていた原因はムラピ山の火山灰によるものが有力だが、完成後に人為的に埋められた説もあり明確な答は出ていない。