2007ジョグジャカルタ旅行記6

ではボロブドゥールに登っていこう!

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我々の世界から遺跡の最下部の基壇迄は欲に満ちた人間の暮らす欲界だ。其所には因果応報を諭すレリーフで覆われている。その中でも有名なものに「醜い顔」と呼ばれるレリーフがある。人は悪い噂話や悪口が大好きな生き物だが、それを行う時、人は醜い顔になっていると言う諭しが籠められている。

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では基壇を上がり欲に満ちた人間界を離れ色界である方形壇に入ろう。その際各階を登る毎にカーラと呼ばれる鬼面を潜る。すると巡礼者の過去の災いが飲み込まれると言う。

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其処からは仏教の習わし通り右回りに回廊を一回りしながら4つの回廊を登っていく。その回廊にはビッシリと仏教のレリーフが彫られている。仏教芸術が好みの方なら一週間いても時間が足りないのでは無いだろうか?ボロブドゥールは仏教芸術の美術館でもある。

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そのレリーフは4層の回廊全体で2500面以上、登場人物1万人。第一回廊から右回りに第四回廊まで追っていく事で、仏陀生誕から仏陀が悟りを開く迄のの彼の生き様が壮大な物語として描かれている。昔の参拝者は僧侶に説明を受けながら、仏陀の人生や教えを学んだ事だろう。

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尚、この回廊には等身大の仏像が432体も納められている。そして建築の東西南北、方角によって仏像の手の印の結び方が違う。
(これは何を意味しているのか調べたのだが結局解らず。情報求む)

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(東面・阿しゅく如来・指地の印)

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(南面・宝生如来・満願の印)

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(西面・阿弥陀如来・弥陀定の印)

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(北面・不空成就如来・無畏の印 全てwikiより)
これらの仏像を眺めていると感じる親近感は、ボロブドゥールが我が国へと伝わったのと同様に大乗仏教密教系の寺院だからだろうか?東南アジアの殆どの地域に伝播したのは上部座仏教である事に反して、何故この地に大乗仏教が伝わったかも非常に気になる謎の一つだ。

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そして余りのボリュームに全てをじっくり見る訳にもいかず、最後のカーラを潜り抜け、いざ悟りの境地、無色界である円形壇に登り詰めれば、設計者の更なる演出に私は驚愕した。

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これ迄方形壇はレリーフと仏像に囲まれた、外界の見通しが効かない回廊を回りながら登って来た。正直仏様の有り難いお話にも頭が重たくなってきて登りきった円形壇。そこで劇的に世界が変わった!

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これまで効かなかった視界が、まるで遮るものの無い世界へ!其処からは広大なジャワの大自然の景色が眺められた。思わず唸る。高層ビルなんて慣れた私が唸るのだから、高層ビル等知る事も無い、当時の人がこの光景を眺めたならどう感じるだろう?しかも方形壇で今まで目隠しをされていた状態で、突然この光景を目の前にするのだ。無論設計者はそんな演出も当然意図しての事だろう。仏の有り難い話を散々見せられた直後に天に昇ったかの様な光景を見せつけれて、設計者の意図にまんまと嵌まってしまった。

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円形壇は三段から成っており、下から32基、24基、16基、全部で72基のストゥーパが設けられており、それぞれ無数の小窓が設けられ、其処から中に安置されている仏像を拝める様になっている。(全て転法輪印の釈迦如来、内二つは仏像を覆うストゥーパ上部が損壊したまま仏像が剥き出しのままとなっている。)

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ストゥーパの下の二段の小窓は菱形をしており、人の不安定な心を表しているが、最上部の一段は正方形をしており安定に達した人の心を表している。そして最上部の巨大なストゥーパには窓も設けられていなければ、中にも何も入っていない。これつまり仏教界の最高の到達点、無の境地、即ち「空」此処に遺跡の到達点と仏教の到達点が結実するのである。

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遂に登り詰めたボロブドゥール。悟りを開けたかどうかは解らぬが、その緻密な迄に計算し尽くされた仏教世界を知らしめる為の演出には本当唸らされた。欲に満ちた人間界から遺跡を登ると共に、仏陀が悟りを開く迄を追体験し、そして無の境地へと登り詰める。安っぽい言葉で表現するなら、三次元で体験する仏教の宇宙観、即ち正に立体曼荼羅であった。

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存分に堪能したボロブドゥール。気づけばいつしか夕暮れが近づく。警備員に促され遺跡を降りる。昔は仏教で彩られたこの地も今は殆どがイスラーム教徒。イスラーム偶像崇拝が出来ぬので、地元の観光客は殆ど一直線に遺跡に登っては、景色を楽しんで降りてしまう。

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そんな彼等にも迷信があって、とあるストゥーパの小窓から腕を突っ込んで仏像の薬指に触れることが出来ると願い事が叶うと言う。彼等と共に腕を伸ばし合って、明日の御来光拝める事を祈った。(注)

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と言うのも、出発前に幾つも他人の旅行記を参考にしたのだが、どうやら晴天率はかなり悪いらしく「見れなかった!」と言う記事が多く、それが私を不安にさせた。乾季であっても朝方は朝靄が立ちやすく日の出を覆ってしまうらしい。天気…此ればかりは神頼みだ。

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夕陽だけでもお腹いっぱいになりそうな夕焼けだったが、決戦は明日早朝!明日の天気を想えば切なくも映える夕焼けに、思わず仏様の隣で一緒になって手を合わせた。

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注)10年のムラピ火山噴火後の復旧後、ストゥーパの中に腕等を入れる行為は遺跡保護の理由により禁止された。