ウルトラマンシリーズと私

 これまでウルトラマンシリーズで記憶に残る物語を紹介してきました。どれも名作として語り継がれている話です。この物語の多くには共通する事があります。単なる勧善懲悪に終わらない、誰が正義で誰が悪と明確に言えない物語が多いのです。

そんな中で一際その傾向が強いのはウルトラセブンの作品群です。理由はシリーズを一貫して宇宙人の侵略をテーマとしたからでしょう。ただ暴れるだけの怪獣と違い、相手は人類同様の知的生命体。此方が防衛する倫理がある以上、宇宙人側にも地球にやって来た理由があるのです。

考えて見れば当たり前の事なのですが、人はそれを簡単に見落としてしまいます。どうやら子供だけでは無く大人達も、何処かの某国が好む様な単純な勧善懲悪のヒーローものに毒され続けてきたのかもしれません。

此方にも事情がある限り、相手にも事情があり、此方にも正義がある以上、敵にも正義はあるのです。この世には絶対悪も絶対正義も存在しないのです。人間が神では無い以上、客観的な正義は存在しません。政治家が言う正義とは大義妙文、即ち自らの正当性を主張する為の飾りに過ぎません。

イメージ 1



こうしたウルトラ作品群が私に気づきさせてくれました。自分を正当化して一方的に相手を叩く裏には何か企みがあるものだと。そんな言葉に同調して大切な何かを失ってはならないと。

もし先に紹介した「ノンマルトの使者」が勧善懲悪で描かれていたら、どんな物語になったでしょう?ノンマルトが地球の先住民だったのでは?なんて部分は全て末梢され、セブンは何の躊躇いも無くノンマルトを倒し、キリヤマ隊長の発言も浮く事無く、逆に威勢高々に響いた事でしょう。

だから争ってまでも他国の利権を奪い取ろうとする国にとって、勧善懲悪は持ってこいな物語なのです。単純明快なハリウッド映画は正にそれに当てはまります。国もハリウッド映画顔負けの勧善懲悪に当て嵌め、国民をたぶらかし戦争をプロデュースします。

だからこそ平和を望みたかったら、まず相手の事情を知る事、相手の訴えに耳を貸す事それが出来なければ解り合える訳がありません。

そうした想いの中、9・11が発生し、世の中は一方的にイスラームは悪の権化の風潮が巻き起こりました。その時私は感じました。旅人なら私自身の目で確かめ、旅してからじゃないと、私は結論を出さないぞ!決して多数の意見の尻馬には乗らないぞ!騙されないぞ!と。こうして10年に及ぶイスラームをテーマとした私の旅が始まったのは以前にも話しましたが、こう振り返って見ると、その勇気を与えてくれたのはウルトラマンなのかもしれません。

こうして全部で60ヵ国以上の国を巡り、様々な国の事情を学び、様々な国の人々と友情を結びました。その上で、この世に絶対悪も絶対正義も存在しない事は身をもって理解出来ましたし、価値観、文化が異なる人との間にも友情は必ず芽生える事も証明出来ました。

しかしながら世界では紛争が絶える事無く続いています。シリアでは政府側を支持するロシアと反政府側を支持する欧米とで武器の販売合戦になってしまいました。そんな泥沼化するシリア情勢を見ていれば、超兵器R1号でダンが口にした

「血を吐きながら続ける悲しいマラソン

と言うフレーズが甦りますし、そんな武器輸出合戦が生み出してしまった悪魔、ISによるテロに対する先進各国の報復行為にも、「怪獣使いと少年」で郷隊員が叫んだ言葉

「勝手な事を言うな!テロリストを誘い出してしまったのはあんただろ!」

と言う思いがあります。そして「ダークゾーン」で二つの星の共存をひたすら願っていたダンの様な心持ちで世界情勢を見つめています。

イメージ 2



ウルトラマンシリーズを支えた重要な脚本家達がいます。その中でも「ノンマルトの使者」を執筆した金城哲夫氏と「怪獣使いと少年」を執筆した上原正三氏、二人の共通項は沖縄出身と言う事です。当時沖縄はアメリカ占領下です。沖縄は昔日本にそしてアメリカの占領を受けました。

そんな環境下に育った彼等にとって、正義とは何か?それは決して単純な勧善懲悪で割りきれるものでは無かった事でしょう。そして今より作品を書くにあたって縛りが少なかったあの時代、新鋭だった彼等は情熱を持ってドラマを書いた事だと思います。

イメージ 3



良くウルトラマンの物語(特にセブン)は子供番組の枠を超越したドラマがあると言われますが、それは違うのだと思うのです。沖縄と言う複雑な環境に育ち、様々な問題を体験してきた彼等だから、これから未来を担う子供達への番組だからこそ、しっかりと伝えておきたかった、しっかりと残しておきたかったメッセージがあったのだと思います。

平和の大切さ、共存の模索、弱者への配慮など人間の普遍なテーマを彼等は作品中に閉じ込めました。セブンのテーマは「宇宙人と地球人は共存出来ないか?」でしたが、その奥底には、「偏見や差別、そして紛争を繰り返す今の地球で、価値観の異なる民族は共存出来ないか?」と言う現在の人類に切実に求められている課題が込められています。それは余りにも尊いテーマであるからこそ、大人になっても考えさせられ続けるのでしょう。どっちが正義でどっちが悪か?それはウルトラマンですら苦悩していました。凡人である私なら尚更の事。

ウルトラマンの作者達は優しく私達に語りかけます。

答は自分で導き出しなさいと。