パキスタン旅行記3ラホール史跡編2

 さて続いてはラホール郊外にあるムガル帝国の遺産を散策しよう。

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(リキシャーに乗って出発)
街の北に位置する部分に4代皇帝ジャハーンギールと彼の親族の廟が残されている。そこまでは車では無くリキシャーで向かった。リキシャーとはバイクを改造した三輪タクシーで日本語の人力車が語源となっている。小さなリキシャーから覗く混沌と喧騒に満ちたラホールの道はスリル満点なのだが、そこがインドだと料金トラブルと言うスリルも加わる。だが此処パキスタンではアッサリとしたものでひと安心した。

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(ジャハーンギール ラホール博物館所蔵)
4代目ジャハーンギールは名君3代目アクバルとタージ・マハールを築いた5代目シャージャハーンの間に挟まれて地味な印象を受けるが、実際政治家としてはそれほど有能では無かったらしい。ただ絵画や芸術には長けていた様で、彼の時代ムガル帝国の細密画は全盛を迎えた。廟は四隅にミナレットを備えた堂々としたものだが、これもやはりタージ・マハールを筆頭とした数あるムガル帝国の廟と比べてしまうと地味に感じる。

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(ジャハーンギール廟)

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(ジャハーンギール廟内部)
アクバル時代に作られたキャラバンサライと呼ばれる、当時の旅の隊商の宿と商業施設を合わせた施設を挟んだ向かいに、アサフ・ハーンの廟が残る。彼はジャハーンギールの妻ヌールジャハーンの弟でタージ・マハールに眠る5代シャージャハーンの妻ムムターズ・マハルの父にあたる人物だ。(つまりヌールジャハーンとムムターズマハルは伯母と姪)

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(アクバルのキャラバンサライ

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(アーサフハーン廟)
そして現在では鉄道に間を引き裂かれてしまってはいるが、その向こうにジャハーンギールの妻ヌールジャハーンの廟が残る。此方はミナレットも無く更に地味ではあるが、タージ・マハールは例外として、妻としては立派な廟ではある。

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(ヌールジャハーン廟)
「もし私が死んだら、世界一の墓を作ってね!」

シャージャハーンの絶大な寵愛を受けタージ・マハルに眠るムムターズマハル。一方ヌールジャハーンは才識兼備の女性であり、ジャハーンギールの晩年は彼に代わって国の政治を取り仕切る程だったと言われる。彼が先に旅立つと彼の廟を築き、自らの廟も築いて他界したと言う。自ら設計したからこそ夫に遠慮してミナレットも築かなかったのだろう。

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(ヌールジャハーン ラホール博物館所蔵)
全く対称的な生き方を辿った二人の后妃、ムムターズマハルは夫が強かったので、甘え上手に生きられたが、ヌールジャハーンはか細い夫を持った為、強く為らざる得なかったのかもしれない。男として見につまされる想いがした。

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(ムムターズマハル ラホール博物館所蔵)
続いて訪れたのはシャリマール庭園、広大な敷地を利用して作られた十字に水路を施す幾何学紋様で形作られるアラビア式庭園でコーランで表現される天国を表す。

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(シャリマール庭園)
この庭園も実は5代シャージャハーンがムムターズ・マハルと家族の為に作った庭園なのだそうである。タージ・マハールがとかく有名なので愛妻の死を痛み突然莫大な費用をかけて廟を作ったと思われがちだが、実は生前からラホール城の鏡の間と言いこの庭園と言い、妻にベタボレで国費をガブガブ使っていたのだ。ムムターズ・マハルは世界一愛された后妃だったに違いない。

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(シャージャハーン ラホール博物館所蔵)
これだけの寵愛っぷりを見せつけられると此方も

「どんだけだよ!シャージャハーン!」

と言いたくもなるが、シャージャハーンとムムターズマハルの実子であり、次期皇帝の座を狙うアウラングゼーブにとっては

「このままでは自分が皇帝になる前に、全ての国費を使われてしまう!」

と気が気でなかった事だろう。

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(タージ・マハル アグラ 2008訪問)
結果前回話した通りシャージャハーンはアウラングゼーブにアグラ城に幽閉され、其処で一生を終える。彼の死後、彼の廟は作られる事は無かったが、最愛の妻が眠るタージ・マハルに妻に寄り添う様に埋葬されたのは、実子としてアウラングゼーブのせめてもの親孝行だったのかもしれない。

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(シャリマール庭園)
そしてそんなアウラングゼーブは決して自分の廟を築く事を許さず、自らの名を冠したアウランガバード郊外に青空の下眠っている。厳しい男は自らにも厳しい潔い男だった。

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アウラングゼーブが眠るアラムギールダルガー アウランガバード郊外 インド 2008訪問)
注)ムガル帝国の皇帝や后妃は称号で呼ばれる事が多い。ジャハーンは世界を意味し、ジャハーンギールは 世界を征服する者、ヌールジャハーンは 世界の光、シャージャハーンは世界の王を表す。ムムターズマハルは 宮廷の選ばれし者と言う意味だ。因みに彼女の眠るタージ・マハルはムムターズのムムが消え、ターズが訛りタージ・マハルとなったと言う説がある。