旧ユーゴスラビアを旅する完全版+ルーマニア編1

  未だ未だ旅先まで決まっていない頃、とある仕事現場に通っていた。そこは丁度私がいつも成田空港へと向かうバスが通る路線だった様で、その現場に赴く度、日々自分の目の前を通り過ぎていく成田空港行きのバスを眺めながら指を咥えていた日々を思い出す。その現場を今度はバスの車内から見下ろした時、ようやく旅が始まった事を実感した。

 平日の夜と言う事もあるのだろうが、成田空港は閑散とした雰囲気だった。羽田で国際線に乗れる様になった今、それほど需要がなくなってしまったのか?思わずこれで大丈夫なのか?と心配になってしまう。

イメージ 1


(いつの間に吉野家が!でもギリギリ閉店orz)
 成田とは裏腹に常時旅人でごった返すドーハで乗り継ぎルーマニアへと向かった。いつもなら乗り継いでしまうと殆ど日本人と出会う事が少ない私の旅だが、今回は何処ぞの大所帯のツアーと日程が重なった様で、オジサマ、オバサマ方で大いに賑わっていた。

イメージ 2


(ドーハの新市街)
 ルーマニアの空港に到着すれば、私は預けた荷物が無いので、大所帯の日本人ツアーの一行をあっという間に追い越してロビーへと出る。そして何処だか知らぬが空港の外に視線を送り、そして黙祷した。

イメージ 3


 2012年、この空港に降り立った日本人女子大生が、この空港から拉致され残忍な方法で殺害された。その手口も胸糞だが、それ以降のネットの反応や、彼女をルーマニアに派遣したNPO団体の対応等、本当に胸糞悪さしか残さなかった事件だった。

イメージ 6


 ネットの反応はいつも通りの自己責任論に終始した。なぜか日本のネットの連中は犯人の罪を棚にあげて、被害者の過失を根掘り葉掘り洗い出して晒しあげる事に熱心だ。特に海外で事件事故に巻き込まれると彼等は一層過激になる。まるで井戸の中の蛙の大合唱だ。

「何故彼女は深夜到着なんて無謀な日程で旅立ったのか?」

 この事件の大きな疑問のひとつは明確な答がある。彼女は旅行では無く、とあるNPO団体が主催のインターンシップとしてルーマニアで日本語を教える為派遣されたのだが、その団体が手配したルートがこの無謀なルートだったのだ。

 初めて訪れる国に深夜到着するなんて、充分旅の経験がある私とて極力避ける。そんな杜撰で危険な計画を立てる団体事態信じられないが、実際彼女もそれを知った時号泣したと言う。彼女の最後に残したツイートにも「辿り着けたら奇跡だと思う。」と綴られている。しかし、そんな彼女を団体は宥めすかして現地に無理に派遣させてしまった。

 本来は宥めるのでは無く、彼女の不安を取り除く事が団体側の仕事であり、不安を取り除く、即ち日中に空港に到着出来るプランに変更すべきだった。そしてそれは当たり前に簡単な事であった筈だ。

 私がもし彼女の過失を責めるとすれば、自分が無茶だと思った事にNO!を貫かなかった事だ。彼女は人一倍責任感が強かったのだろう。出発直前に日本を賑わせた某大学のアメフト部の事件もそうだが、責任感の強い子が、無責任な組織を信じたばかりに身を滅ぼす。自分がダメだと感じたら、それがなんであろうと駄目を貫かねばならない時もある。

イメージ 4


(ブカレスト北駅駅前)
 空港を後にしてルーマニアの首都ブカレストの中心となる北駅に向かった。東欧で一番治安が悪いとされる駅だがマックを始め様々な外食店が立ち並び拍子抜けする程賑やかだった。

イメージ 5


(駅構内)
 ヨーロッパの鉄道駅は得てして大抵治安は最低だ。その理由のひとつに駅の位置がある。日本の街の中心となる駅なら普通その街の中心にあるのが普通だが、ヨーロッパでは大抵街の外れにある。日本の様に単一民族では無く、よそ者が出入りする鉄道駅は街の外れに設置するのがヨーロッパでの習わしだったのかもしれない。当然街の外れは街の中心より治安は悪くなるから自然ヨーロッパの駅は治安が悪くなる。

イメージ 7


 もうひとつの要因はヨーロッパの駅は日本の様に切符を買った乗客だけでは無く誰でも入れるところにある。駅や空港はボッタクリがカモを探すのにこの上ない場所だ。何故ならその街の地理も物価も全く知らない旅人がキョロキョロ、オドオドしてる場所だから。だから大抵駅員を装ったカモを探す連中がそこぞかしこで目を光らせている。空港で拉致された日本人女性もそんな悪徳タクシーに客を斡旋するギャングの犠牲となった。

イメージ 8


 今日訪れるブラショフと言う古都迄の切符を購入し、ホームで、どう考えても鉄道職員の人間に(客車の連結器を操作していた)自分の客車の位置を聞き終え、その客車に向かっていると早速如何わしい男が現れた。

「君の客車はそっちでは無い、此方だ。」

 彼はそう言い私をとある客車に導いた。その車両はコンパートメントと呼ばれる車両だった。ヨーロッパの鉄道の治安が悪い三点目の要因だ。コンパートメントとは簡易個室となっており、向い合わせの席がひとつに囲われて個室の様になっている車両だ。自由席なので鍵は無いが、ある程度プライバシーは保たれるのだが、そこが悪因ともなってしまう。つまり犯罪を行うプライバシーも保たれてしまうと言う事。だから女性の一人旅で、しかも夜行列車に乗るなら自由席のコンパートメントは絶対に避けるべきだ。
彼は私をそんなコンパートメントに導いたが、どうやら選んだ相手が悪かった様だ。私にとって彼なんか旅の初めの挨拶代わりのウォーミングアップに過ぎない。

イメージ 9


 さてブカレストの北駅は拍子抜けする程治安が良かったと私は述べたが、それは私が訪れた日中である事を留意して欲しい。日中と夜中では全く街の様相、治安が劇的に変化する。例えばニューヨークの五番街は日中ならティファニーを始め名だたるブランド店が建ち並びセレブが集う通りだが、それらが一斉に閉店してしまえば通り歩く人は皆無に近く、猥雑な繁華街であるタイムズ・スクエアの方がよっぽど落ち着く。

 此処ブカレストにはマンホール・チルドレンと呼ばれる人々がその名の通りマンホールの下で暮らしていると言う。チャウチェスク時代の多産推奨の政策により多く生まれた子供達が、彼の暗殺以降その政策が見直された事により補助金等が貰えなくなりストリートチルドレンが激増。そんな彼等がマンホールの下で暮らしていると言う。昼はマンホールの下で暮らし夜になると街に出てくる。その出入り口が北駅のすぐ傍にあると言う。不要不急の場合夜の北駅には近づかぬ方が懸命だろう。